本書発刊によせて

花のようにかよわくやさしい少女は素敵な王子様に出会う。
空のように明るく清らかな少女は勇気をもって冒険に出る。
ドキドキとページをめくりながら主人公と共に夢の世界を旅する。
「女の子」の絵本にそんな期待を持つ人は多いだろう。

『モノローグ』の扉を開く。
少女の持つ華やかさを押し隠すかのように寡黙な姿の主人公。
次々に現れる奇妙であやしげな生物たち。
白い背景は、ただ静かにひろがり彼らを包んでいる。
そこには花のように美しくやさしい世界も、
空のように晴れやかな明るさも描かれない。

この絵本の作者モトイさんは、いつもひとり黙々と絵を描いている。
話しかけると、ゆっくりと顔をあげ、静かな瞳をこちらに向け、少し笑っている
ような怒っているような、それでいて少し困っているような様子で丁寧に
選んだ言葉をぽつぽつと返してくれる。
ふんわりとした空気と時間をまとい、けして声を荒らげることのない彼女を、
控えめで温和な人と呼んで異論を唱える人は少ないだろう。
そして、その胸の内に秘められたものに気づく人も少ないのかもしれない。
彼女のたたずまいのように抑えられた色と言葉。選ばれた線の穏やかな筆致。
この絵本に淡々と描かれる痛切な風刺は、現実と自らの脆さを
静かに確かな目でみとめ続ける彼女の強さを伺わせる。

人々は『モノローグ』に見つけるだろう。
自分が見てきたもの、忘れてしまったこと。
言えなかった言葉。
自らの姿。
それらをおそれず目を背けずに向き合うことができた時、
この絵本の中にある切なさと隣り合わせの安堵に気づいた時、
彼女が憧れ見つめ続け、ここに描こうとした本当のやさしさを受けとめることが
できるのかもしれない。

宮崎詞美　横浜美術大学ビジュアルデザイン領域 准教授

あとがきより

「この機会を利用して、今まで自分の中で蓄積してきた思いを絵本という形にして、躊躇わずに出してしまおう」
という思いから、本書は出来上がりました。
ポツリポツリと各項目ごとに展開していくこの「モノローグ」ですが、読んで下さった方々によっては、「何を言おうとしてるの？」と思う箇所が少なからず出てくると思われます。
ですがそれもまた、一つの読み方だと制作者である私は思います。
わからないところはわからないままで大丈夫、それは貴方にとってわからない方が幸せな事なのかもしれないからです。

　2011年７月 　基 蕗子

著者プロフィール
1989年12月、神奈川県鎌倉市に生まれる。
幼い頃から絵を描く事が好きで、小学校では
漫画クラブ、中学校では美術部に所属。
本作品は大学3年時の課題として制作、提出したものである。