―災害発生予測と医療事故―
岡本友好
東京慈恵会医科大学付属第三病院副院長・外科診療部長
広島の豪雨による土砂災害や御嶽山の噴火と予知できない大惨事が続き、亡くなられた方々のご冥福を心からお祈り申し上げます。
東日本大震災のときに盛んに言われた「想定外」という言葉。津波や、原子力発電所の破壊と多くの専門家が批判にさらされたことは記憶に新しい。しかし災害の発生の予測や避難勧告の決断はきわめて難しいと考える。この場合、大学教授、学者、役人などは過去の事案を詳細に分析し、それに今までの学説、仮説を加味して最大限の可能性を述べているにすぎず、所詮今までの経験則プラスアルファである。とくに後者の判断は2次災害や個人の意向もからみ、結果論だけで判断するのは酷なような気がする。反対にこれらを頻発することも批判にさらされるだろう。以前「富士山が噴火する」と予言し、地元産業から多額の損害賠償を請求された学者もいたようである。
同じことが医療の世界でもあてはまる。人体は予測不可能な、ときに「想定外」の事案に遭遇する。統計学がことさら重宝されるのは、経済とともに医療の特徴である。手術などの侵襲的治療行為の合併症を予測したり理解していただくのは本当に難しい。縫合不全率が「全国平均でXX%で、当院ではXX%」と統計学上のことを言っても、起こってしまった人は100%被害を被ることになるため、起こってしまった後でのご理解はさらに難渋する。
近年医療が専門化、ハイテク化し、マスコミによって100戦100勝と宣伝されるスーパードクターが紹介され、あたかも医療行為における合併症が起こらないような印象を与えていることが少なくない。もちろん以前に比べ合併症は減少し、施設間、医師間の較差があることも否定はしないが、とくに一般の人には簡単であろうと想像する内視鏡や検査などでこの「想定外」が起こってしまったときは医療側と患者側の認識の較差を埋めるのは至難の業である。
人間の体のしくみはきわめて効率的で精巧につくられている反面、自然界の現象と同様に、その不確実性や脆弱さを持ち合わせ、いずれ寿命が来るという現実を改めて考え直すことも大切であるように思う。
以前、祖父祖母などと同居していた家族が多かった頃は、年寄りがだんだん年老いて自宅で息をひきとる光景が身近にあった。核家族化がすすみ身内の病や死を受け入れられなくなった方が増えているように思う。地方でいまだ大家族で暮らしている地域では死や寿命を小さい頃から肌で感じており、病院で医療者に責任を押しつけることは少なく、自然と厳しい事実を受容できている。そこには、昔の古きよき医療者と患者さんの信頼関係を垣間見ることができる。患者さんとの信頼関係の構築には、人間の寿命と死、医療の限界と厳しい現実をわれわれ医療関係者は真摯な態度で繰り返し発信していくことが肝要であると痛感する。
(2014年10月20日発行 ライフライン21がんの先進医療vol.15より)
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