―STAP細胞騒動が突きつけた課題―


岡本友好
東京慈恵会医科大学付属第三病院副院長・外科診療部長

 世間を騒がせている理研のSTAP細胞をめぐる問題は、「りけじょ」なる流行語のせいもあってかもっぱらO研究員の個人的問題として取り扱われることが多いが、ちょっと観点をかえて、理研のあり方、とくに財政基盤からこの問題を考察してみたいと思う。
 そもそも研究は、薬物の効能をチェックするなどの比較的結果が出やすい短・中期的なものと、今回の生物学の根幹をゆるがすような長期的な研究とに大きく分かれると考える。前者はある程度、予算が組みやすくポジィティブだろうがネガティブだろうが結果が得やすい。
 一方、後者は気長な研究が要求され、その過程での思いつきや、偶然の産物がときとして大発見を生み出すことがある。よって期間も予算もつきにくいといえる。今回のSTAP細胞はこの範疇に入るものと私は考え、しかるに早急にSTAP細胞があるかどうかの結論を世論にあおられて出すべきでないと考える。
 では、なぜ理研関係者もO研究員も成果を急いだのか? これは少なからず独立行政法人(独法)に理研が移行したことに関連していると考える。
 以前は特殊法人であり、納税が免除されたり、国の財政投融資による資金調達が可能であるなど、ある程度の予算がいい意味でファジーに使用できたのではないかと推測する。
 一方、業務効率の悪さなどの指摘を受け、税金の無駄遣いと認識されるようになり現在のような独法になったため、旧国立病院などでは独立採算となり、薬剤や医療機器使用において徹底的効率化が迫られるようになった。
 これを研究にあてはめると、やはり短期間での着実な成果とそれに伴う研究費の獲得が生き残りの必須条件となる。研究員の予想以上の短期間契約もこれの現れであろう。
 よって論文のコピペや捏造疑惑がいつも指摘されるのは、常に研究者が成果を得ることに焦って、自らの地位保全に汲汲としている結果であると思う。時間と手間、資金が必要な今までの常識を覆すような気長な研究はいわゆる不採算部門で、これにはお金をかけられない状況が生まれていると推測する。
 先の賢人らがその当時は異端妄説といわれた学説が、後に真理となったように、世界の常識を覆すようないくつかの研究は国家が保護し、多少効率性が劣ってもどこかの場所で行うべきと考える。それこそ杓子定規になんでも独法とするのではなく、もちろん予算には限りがあり、どの研究をセレクトするべきかなど課題は多いと思うが、このような使命を理研が担ってもいいのではないかと思う。
 朝永振一郎博士は、かつての理研を「科学者の自由な楽園」といわれた。今後の理研の改善点に、ぜひこの点も考慮して欲しい。

(2014年7月20日発行 ライフライン21がんの先進医療vol.14より)

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