シリーズ 治療効果をプラスする「最新のがん治療」

~さまざまながん種に対する免疫細胞療法の効果~
第17回 咽頭がん


加藤洋一
新横浜かとうクリニック院長

 新横浜かとうクリニックでは、通院抗がん剤治療や免疫細胞療法、温熱治療、がん遺伝子検査などを駆使し、がん患者さんへの治療を行っている。その治療のコンセプトは「治療効果をプラスする治療法がある」。つまり、標準治療に他の治療をプラスし、少なくとも生存率を70~80%まで引き上げることを目指しているのだ。その切り札の1つである免疫細胞療法として、樹状細胞がんワクチン(樹状細胞ワクチン療法=バクセル)、活性化リンパ球療法、WT–1 CTL療法などを実践している。
 本連載では、これらの免疫細胞療法がそれぞれのがん種にどのような効果をもたらしたのか、というがん種別の症例を治療方針と共に紹介していく。第17回は、頭頸部がんの約30%を占める咽頭がんを取り上げた。

時間をかけて治療効果が現れる扁平上皮がん

 当クリニックを開業してから7年以上が過ぎた。この間、500人近い患者さん(大部分がステージⅣか再発・転移のがんを抱えていた)に免疫細胞療法を行ってきた。がん種別で見ると多い順に、大腸がん・膵がん・胃がん・肺がん・乳がん・卵巣がん・食道がん・子宮がん・頭頸部がん・前立腺がん・肝がん……と続く。
 今回、取り上げる咽頭がんは、口唇・口腔がん(舌がんも含む)、喉頭がん、鼻腔・副鼻腔がん、唾液腺がん、甲状腺がんなどとともに頭頸部がんに含まれる。当クリニックでは、それほど症例が多いがん種ではない。
 当クリニックの咽頭がんの症例は、(2015年9月)現在、10例ある。その10例中、PR(部分奏功)が5例、SD(安定)が3例、PD(進行)が2例であった。このなかには、PRからCR(完全奏功)になった症例が1つ、SDからCRになった症例が1つ、PDからPRになった症例が1つあった。要は、当クリニックの咽頭がんに対する免疫細胞療法は、行った直後はそれほど効果が現れていないケースでも、その後にだんだん腫瘍が縮小してきた症例が少なくないということである。
 咽頭がんの大部分は、組織学的には扁平上皮がん(上皮性の悪性腫瘍の1つ)である。扁平上皮がんの場合、すぐに奏功が見られるのではなく、時間をかけて効いてくるケースが多々ある。また、咽頭がんで特徴的なのは、後述する樹状細胞がんワクチンが直に打てる部位だということである。

咽頭がんの特徴と、標準治療

 今回、取り上げる咽頭がんは、頭頸部がんの30%あまりを占める。好発年齢は50~60歳代。喫煙や過度のアルコール摂取がリスクファクターとして挙げられている。
 「咽頭」とは喉の奥のことを指し、上から上咽頭・中咽頭・下咽頭に分けられ、がんができた部位により上咽頭がん・中咽頭がん・下咽頭がんに区別される。
 上咽頭は鼻腔とつながっており、空気が通る通り道となっている。中咽頭は、空気と食べ物が通る通り道で、扁桃腺や舌の付け根、口蓋垂が存在している。下咽頭は咽頭の中で最も下部に位置し、気管とつながる喉頭や声帯が存在している。このなかで最もがんができやすいのが下咽頭で、咽頭がん全体の約60%を占めている。
 上咽頭がんの症状としては、頸部のリンパ節の腫瘍が挙げられる。また、頸部リンパ節に転移することが多い。中咽頭がんの初期症状は、食物を呑み込むときの違和感などである。それが進むと、しゃべりにくさや喉の痛みなどが出てきて、より進行すると出血や開口障害、耐えられない痛み、嚥下障害などが現れる。下咽頭がんの症状は、嚥下時の異物感・耳への放散痛・声がれ・頸部リンパ節の腫れなどである。
 咽頭がんの標準治療は、外科手術・化学療法・放射線治療を組み合わせて行うが、どの治療法を中心に据えるのかは、部位やステージによって異なる。上咽頭がんでは放射線治療が中心に行われ、リンパ節転移が疑われる場合はリンパ節を切除することがある。中咽頭がんでは、がんそのものの切除とリンパ節の切除が中心で、がんが広がっている場合は、がんのある部分とその周りの組織を広く切除する。下咽頭がんでは、喉頭と下咽頭、および食道の一部または全部を切除することがある。

打ったところに近い部位から効いてくる樹状細胞がんワクチン

 当クリニックで行っている樹状細胞がんワクチンは、がん細胞の抗原情報をがんペプチド(がんの特異的抗原)として認識する樹状細胞を用いた治療法である。その樹状細胞がんワクチンには、WT1クラスⅠ、WT1クラスⅡ、MUC1、HER2、AFPペプチドワクチン(αフェトプロテイン由来のペプチドワクチン)の5つがある。それらの使用法の用途はがん細胞の形態によって異なり、腺がんには4つのうちのどれかを、扁平上皮がん・小細胞がん・大細胞がんにはWT–1のみを使用している。
 当クリニックでは、基本的に樹状細胞がんワクチンの接種は、2週間に1回ずつ計5回(3カ月間)を1コースとしている。そのコース中に、患者さんの免疫反応がしっかりとアップしているのかを調べる。そして、1コースが終了して2カ月以内に、さらにその3カ月後にCT検査を行い、治療効果の評価を行う。ちなみに、治療終了時点でそれほど効果が認められなくても、治療終了から3カ月後に著明な効果が認められるケースも多々ある。
 また、樹状細胞がんワクチンは、患者さん自身が持っている免疫力をアップさせるので、他の治療法と併用しやすい。とりわけ、患者さんから採取したリンパ球を増強し、約1000倍に増やして体内に戻す活性化リンパ球療法との相性は抜群である。
 また、樹状細胞がんワクチンの効果を高めるポイントは、その培養のために患者さんの体内から血液を採取する時期にある。抗がん剤は白血球を減少・損傷させるので、抗がん剤治療を受けている患者さんであれば、樹状細胞培養のための採血は次回の抗がん剤投与の直前、つまり白血球が最も多くて状態のいいときに行うのがベストである。
 こうした免疫細胞療法と先述の標準治療にしても、その効果はがんの部位によって大きく異なる。というのは、その部位によって血流が異なってくるからだ。たとえば、肝臓や肺は血管が多く、胃や大腸もそれが多い。これらの臓器に比べると胆管や膵臓は血流が少ないし、乳腺もそれほど太い血管が通っていない。また、子宮や卵巣は血管がだいぶ細く、さらに骨や脳の中の血管も太くないし、リンパ節はかなり細い血管が入っているだけで、腹膜・胸膜には血管がほとんどない。
 こうしたことが意味しているのは、点滴で投与される抗がん剤は血管の多い部位に薬が届き、良い効果が得られやすいということだ。逆に言えば、血管が少ない部位は抗がん剤の効果が乏しいと考えられる。その意味で、今回、取り上げた咽頭がんは、抗がん剤が効きにくいがん種の1つだと捉えることができる。
 それに対し、樹状細胞がんワクチンは、鼠径部や腋から注入し、リンパ管の流れに乗って、血液とは逆に心臓のほうに向かって進んでいく。したがって、抗がん剤の効果が乏しい部位のがんにも効果を発揮する。
 また、樹状細胞がんワクチンの場合は、打ったところに近い部位から効いてくる。だから、部位によって「効果があるか・ないか」ではなく、部位によって「効果が早いか・遅いか」なのである。

咽頭がんへの奏功例

 当クリニックで免疫細胞療法を受ける患者さんの大部分が、ステージⅣか再発・転移のがんを抱えていた方々である。今回、ご紹介する2人の方々も進行性の咽頭がんを抱えていた。
 1つ目の症例の患者・Aさん(70歳代・男性)は、ステージⅣの中咽頭がんで、頸部リンパ節転移と転移性肺がんを抱えていた。Aさんは、他の医療機関でTS–1を用いた抗がん剤治療を3クール行った。しかし、病状は進行した。その後、再び抗がん剤治療を開始した。そして、当クリニックを受診し、5回の樹状細胞がんワクチンと3回の活性化リンパ球療法を行った。
 その後、Aさんは他の医療機関でシスプラチンと5FUを用いた抗がん剤治療を始めた。さらに、当クリニックでは活性化リンパ球療法を行った。
 以後、Aさんの進行は抑えられ、咽頭の腫瘍は画面上、消失した(写真1参照)。


写真1 咽頭の腫瘍が消失した症例(70歳代・男性)

 2つ目の症例の患者・Bさん(40歳代・女性)は、他の医療機関において下咽頭に腫瘍が発見された。そして、その腫瘍を切除するための手術と遊離空腸を移植して吻合させる手術を受けた。退院後、下咽頭がんを再発させ、抗がん剤治療と放射線治療を受けるのが困難とされて余命を宣告された。そんななか、免疫細胞療法を受けることを希望し、当クリニックを訪れた。
 Bさんは、当クリニックを受診した当初、腫瘍が左頸部の表面に腐った状態で出ていた。
 当クリニックでは、Bさんに対し、樹状細胞がんワクチンと活性化リンパ球療法を行った。その結果、徐々に腫瘍は縮小し、消失していった(写真2参照)。


写真2 下咽頭の腫瘍が消失した症例(40歳代・女性)

 その後も、3カ月に1度の割合で当クリニックに通院してきた。初診から1年後に職場に復帰。初診から6年以上が経過した今も、元気に仕事をされています。

当クリニックのがんペプチドの効果を検討

 当クリニックでは、今回、取り上げた咽頭がんに限らず、さまざまながん種の患者さんに対し、最新の免疫細胞療法を提供している。そこで、私は当クリニックでも用いているがんペプチドであるWT1クラス1・WT1クラス2併用のパルス樹状細胞がんワクチンの、多種の進行がんに対する有用性を検討した。
 その対象は、2014年9月から2015年6月までに、WT1クラスⅡペプチドワクチンを使用した樹状細胞がんワクチンを5回以上接種した膵がん9例・胃がん8例・肺がん7例・卵巣がん4例・子宮体がん4例・平滑筋肉腫3例など合計49例、13種の悪性疾患。そのうちの大部分はステージⅣ(23例)か再発(17例)の症例であった。ちなみに、当クリニックは、倫理委員会の承認と再生医療等の安全性の確保等に関する法律の第3種再生医療等提供計画を認定再生医療等委員会承認の基準を順守している。この検討に用いたワクチンは、WT1クラス1とWT1クラス2の他にG1ypican3であった。
 その結果、他の医療機関の同様の報告と比べ、RR(CR+PR)やDCR(CR+PR+SD)といった良好な成績が多かった。その理由として、当クリニックでは、以前の報告などに比べ、平均樹状細胞投与数が2・8倍と多いことや活性化リンパ球療法を併用する例が多いこと、がん免疫モニタリングの指標を用いて治療効果を判断している点が挙げられる。
 また、2015年6月、私は一般社団法人 横浜市港北区医師会の副会長と、港北医療センターの副センター長に就任した。今後も、地域に根差した医療を実践すると共に、日本中、あるいは海外の進行性・難治性のがんを抱える患者さんの5年生存率50%(現在=38%)を目指し、治療効果をプラスする「最新のがん治療」を行っていきたい。

(2015年10月30日発行 ライフライン21がんの先進医療vol.19より)

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