シリーズ 治療効果をプラスする「最新のがん治療」

~さまざまながん種に対する免疫細胞療法の効果~
第13回 肉腫(サルコーマ)


加藤洋一
新横浜かとうクリニック院長

 新横浜かとうクリニックでは、通院抗がん剤治療や免疫細胞療法、温熱治療、がん遺伝子検査などを駆使し、がん患者さんへの治療を行っている。その治療のコンセプトは「治療効果をプラスする治療法がある」。つまり、標準治療に他の治療をプラスし、少なくとも生存率を70~80%まで引き上げることを目指しているのだ。その切り札の1つである免疫細胞療法として、樹状細胞がんワクチン(樹状細胞ワクチン療法)、活性化リンパ球療法、WT–1 CTL療法などを実践している。
 本連載では、これらの免疫細胞療法がそれぞれのがん種にどのような効果をもたらしたのか、というがん種別の症例を治療方針と共にご紹介している。第13回は、希少がんの1つであるサルコーマ(肉腫)を取り上げた。

サルコーマの特徴

 当クリニックが開業してから6年以上が過ぎた。この間、400人以上(大部分がステージⅣか再発・転移のがんを抱えていた)の患者さんに免疫細胞療法を行ってきた。がん種別で見ると多い順に、大腸がん、膵がん、胃がん、肺がん、乳がん、卵巣がん、食道がん、子宮がん、頭頸部がん、前立腺がん、肝がん……と続く。したがって、今回、取り上げるサルコーマ(肉腫)は、当クリニックでは決して症例が多いがん種ではない。それでも、他のがん種同様、進行性のサルコーマに対しても当クリニックの免疫細胞療法が奏功したケースは複数あるので後述する。
 本稿で取り上げるサルコーマは、全身の骨や軟部組織(脂肪・筋肉・神経など)から発生する悪性腫瘍の総称である。その特徴は、「希少性」と「多様性」にある。つまり、たとえば胃がんや肺がんなどの上皮性悪性腫瘍に比べ、発生頻度はきわめて低いのだ。悪性腫瘍全体を100とすれば、サルコーマが占める割合は約1%にすぎない。このように至極、珍しいがん種であるにも関わらず、若年者から高齢者まで幅広い年齢層の患者さんのさまざまな部位・組織から生じる。そして、その症状や必要とされる治療、治療効果も多様となる。
 サルコーマが発生する部位・組織は、先述のように骨や軟部組織、体幹、後腹膜、子宮肉腫などさまざまである。骨の肉腫は、主に骨肉腫・軟骨肉腫・ユーイング肉腫(ユーイング肉腫ファミリー腫瘍)の3種類に大別される。
 骨肉腫は、10~20歳代の若年者の膝や肩の周囲に発生することが多々ある。その治療法は抗がん剤治療と手術で、放射線治療はあまり効果がないとされている。軟骨肉腫は、主に40歳代以上の比較的高齢の人に発症する。好発部位は大腿骨・骨盤・上腕骨。その治療法は基本的に手術が中心となり、抗がん剤や放射線治療は効果が乏しいとされている。ユーイング肉腫は、主に20歳以下の若年者に見られるものの、高齢者にも発生する。好発部位は大腿骨・骨盤骨・脊椎など。その治療法は抗がん剤治療と手術を組み合わせたものが中心であるが、放射線の感受性が比較的高い腫瘍であるため、脊椎や骨盤に発生して切除不能な場合には、放射線を照射する場合もある。
 軟部肉腫は、その約40%が四肢に発生する。とりわけ下肢に発生する頻度が高く、好発年齢にも特徴がある。その治療法は手術が基本で、局所再発の可能性をできるだけなくすため、腫瘍の周りの健常な組織までを含めて切除することが必要とされている。ただ、切除範囲は腫瘍の種類や悪性度で異なる。腫瘍が重要な血管や神経に接していて、十分な切除縁がとれない場合は、手術前に全身化学療法や放射線治療を行い、腫瘍を小さくしてから手術を行うこともある。
 肉腫は、四肢以外にも胸壁や腹壁、脊椎、肋骨、骨盤などからも発生する。このような体幹や体表に発生する肉腫は、余裕のある十分な切除が行えないため、再発が多く、再発後の成績も不良とされている。
 後腹膜は「腹膜の外側」を指し、「後腹膜肉腫」という名称は、あくまでも後腹膜に発生した肉腫を指す総称である。一般に、後腹膜肉腫に関する治療は、まず外科切除が可能か否かを検討する。再発・転移の場合は、手術が有効であるか否かは状況によって異なり、抗がん剤治療や放射線治療といった治療方法も視野に入れ、治療計画を立てていく。
 子宮肉腫は、がん肉腫・平滑筋肉腫・内膜間質肉腫の3つに大別される。
 がん肉腫は、腫瘍病態的に子宮体がんと類似した腫瘍とされている。後述するが、平滑筋肉腫は術前診断が難しく、「子宮筋腫」として治療され、子宮摘出、あるいは筋腫摘出により初めて診断されることも少なくない。
 子宮内膜間質肉腫は、平滑筋肉腫と同様に術前診断が難しく、筋腫や腺筋症として摘出されてからその診断がつくことも多い。
 子宮肉腫は、肉腫の種類や病期などにより選択肢が異なるが、一般に手術や抗がん剤やホルモン剤を用いた薬物療法が用いられる。いずれにしても、婦人科の肉腫は希少であるために症例が少なく、治療法が十分に確立されていないのが現状である。

治療効果をプラスする「最新のがん治療」を実現

 当クリニックで行っている樹状細胞がんワクチンは、がん細胞の抗原情報をがんペプチド(がんの特異的抗原)として認識する樹状細胞を用いた治療法である。その樹状細胞がんワクチンには、WT–1、MUC1、HER2、AFPペプチドワクチン(αフェトプロテイン由来のペプチドワクチン)の4つがある。それらの使用法の用途はがん細胞の形態によって異なり、腺がんには4つのうちのどれかを、扁平上皮がん・小細胞がん・大細胞がんにはWT–1のみを使用している。
 いずれにしても、当クリニックでは、基本的に樹状細胞がんワクチンの接種は、2週間に1回ずつ計5回(3カ月間)を1コースとしている。そのコース中に、患者さんの免疫反応がしっかりとアップしているのかを調べる。そして、1コースが終了して2カ月以内に、さらにその3カ月後にCT検査を行い、治療効果の評価を行う。ちなみに、治療終了時点でそれほど効果が認められなくても、治療終了から3カ月後に著明な効果が認められるケースも多々ある。
 また、樹状細胞がんワクチンは、患者さん自身が持っている免疫力をアップさせるので、他の治療法と併用しやすい。とりわけ活性化リンパ球療法との相性は抜群である。活性化リンパ球療法とは、患者さんから採取したリンパ球を増強し、約1000倍に増やして体内に戻し、主として患者さんのがん免疫力を上げることでがんを壊す治療法である。
 樹状細胞がんワクチンの効果を高めるポイントは、その培養のために患者さんの体内から血液を採取する時期にある。抗がん剤は白血球を減少・損傷させるので、抗がん剤治療を受けている患者さんであれば、樹状細胞培養のための採血は次回の抗がん剤投与の直前、つまり白血球が最も多くて状態のいいときに行うのがベストなのである。
 また、当クリニックは「やっぱり最先端科学によるがん治療を受けたい!」をテーマに、新しく、かつ安全な治療を提供している。今回、取り上げたサルコーマのような希少がんは、他のがん種よりも不利な医療状況が生じている。とりわけ、発見が遅くなる、治療放射線が確立されていない、予後が悪い……など、この領域の問題は山積されている。
 そんななかにあって、代表的ながん治療である手術・抗がん剤・放射線・免疫療法は急速に進歩している。この状況にあって大切なのは、それぞれの治療の特長を活かして治療していくことだ。
 手術は外科、抗がん剤治療は腫瘍内科、放射線治療は放射線科、免疫療法は街中のクリニックで行っていることが多い。すると、各々の医師がその分野の専門でなく、最適ながん治療計画がつくられないケースが生じてしまう可能性もある。となると、それぞれの最先端の治療が無駄になってしまう場合も生じてくる。こうした問題点の解決を図るには、がん4大治療に精通した医師と、そのクリニックの病院連携が必要不可欠である。
 その点で言えば、当クリニックは他の治療の専門家との連携が可能であり、樹状細胞がんワクチンの効果に加え、併用するには最適な治療をも提供できる。言うなれば、こうした点も、私が目指すところの「治療効果をプラスする『最新のがん治療』」なのである。

免疫細胞療法の進行性サルコーマへの奏功例

 当クリニックで免疫細胞療法を受ける患者さんの大部分が、ステージⅣか再発・転移のがんを抱えていた方々である。今回、ご紹介する4人の方々も、全員が進行性のサルコーマを抱えていた。
 1つ目の症例の患者・Aさん(60歳代・女性)は、2008年5月に神奈川県内の大学病院において、骨盤に約10㎝の腫瘍があることを告げられた。翌月、腫瘍切除を受け、平滑筋肉腫の診断を受けた。そして、2009年6月に再発したため、左尿管にステントを入れた。同年7月から8月にかけ、放射線療法を行ったが、効果を得ることができなかった。そこで、アドリアマイシンとサイクロフォスファミドの抗がん剤治療と放射線療法を組み合わせたケモラジ(化学放射線治療)を行った。そのケモラジも効果がなく、2009年11月に当クリニックを受診した。そして、当クリニックにおいて、2009年12月9日から2010年2月8日にかけ、WT–1樹状細胞がんワクチンと活性化リンパ球療法を1コース行った。
 その結果、WT–1樹状細胞がんワクチンを行う前に18㎝あった腫瘍が8㎝に縮小した(写真1)。


写真1

 2つ目の症例の患者・Bさん(50歳代・女性)は、2009年1月に子宮筋腫の診断で子宮全摘術を受けた。そして、その病巣を病理診断したところ、子宮内膜間質肉腫と平滑筋肉腫の混合肉腫を発症していることがわかった。幸いにして転移はなく、悪性度もそれほど高くなかった。
 しかし、2009年8月に肺転移が見つかり、抗がん剤治療を受けたものの、効果がなかった。その後も、他の抗がん剤(ジェムザール+ドセタキセル)を行ったところ、長期間にわたり進行が止まった。だが、その途中で副作用が激しくなり、抗がん剤治療を中止することになった。そこで、2010年10月中旬に当クリニックを受診。同年10月下旬から12月初旬にかけ、WT–1樹状細胞がんワクチンを1コース行った。
 その結果、リンパ球数が増えてきた。そして、治療後3カ月後には、治療前に8㎝だった腫瘍が5㎝に縮小した(写真2)。


写真2

 3つ目の症例の患者・Cさん(60歳代・女性)は、2010年に子宮肉腫の切除術を受けた。2011年1月には、左胸にがん性胸水が溜まり、加えて5㎝の転移性肺腫瘍が認められた。そこで、がん専門病院において、抗がん剤治療(カルボプラチンとパクリタキセル)を受けた。さらに、当クリニックにおいて、WT–1樹状細胞がんワクチンと活性化リンパ球療法を1コース行ったところ、病巣は消失した(写真3)。


写真3

 4つ目の症例の患者・Dさん(60歳代・女性)は、2013年7月に足の付け根にできた後腹膜腫瘍切除術を受けた。2014年1月、仙骨・腸骨・腰椎にも転移しており放射線治療を行った。その後、肺転移も見つかり、余命2~3カ月と宣告された。
そのような他の治療法がないまま、当クリニックを受診。2014年3月から4月中旬にかけ、WT–1樹状細胞がんワクチンと活性化リンパ球療法を1コース行った。
 その結果、リンパ球数は順調に増え、局所コントロールも良好であった(写真4)。


写真4

 現在、当クリニックにおいて、平滑筋肉腫11例に対し、WT1ペプチド樹状細胞がんワクチンを施行している。そのうち10例が5回(1コース)のワクチン接種をすることができ、評価が可能だった。その10例の奏効率は50%、制御率は70%。放射線治療後の病変のコントロールは概ね良好であった。
 一般には、平滑筋肉腫に対して支持療法として放射線治療が行われている。だが、局所コントロールが得られる場合があるものの、生存には寄与せず、疼痛緩和のみ効果が期待できる。また、アドリアマイシンやイホスファミド、ゲムシタビン、ドセタキセルなどを用いた集学的な抗がん剤治療も試みられているが、後腹膜の平滑筋肉腫では生存の延長などが明らかにされていない。それらの現状に鑑みれば、平滑筋肉腫に対してWT1ペプチドワクチンをパルスした樹状細胞がんワクチンは治療法として有望である、と私は考えている。
 今後も、当クリニックでは、進行性・難治性のがんを抱える患者さんの5年生存率50%(現在=38%)を目指し、治療効果をプラスする「最新のがん治療」を行っていくつもりである。


(2014年10月30日発行 ライフライン21がんの先進医療vol.15より)

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