シリーズ 先端医療 ―樹状細胞療法― ⑲

難治がん・転移がんの集中治療・往診治療
新薬『ニボルマブ』の効果を検証
~がん新生抗原に注目〜


星野泰三
東京・大阪・京都統合医療ビレッジグループ 理事長・プルミエールクリニック院長

 がん治療の領域では、今から30年以上前より、免疫力、すなわち自己治癒力が多くの人の耳目を集め、免疫治療が大きな期待を背負ってきました。その免疫治療では、近年になり、ペプチドワクチンや樹状細胞などを用いた治療法が登場してきました。さらに、昨今、メディアで取り上げられることが増え、注目度が急上昇しているのが免疫チェックポイント阻害剤・ニボルマブです。
 今回は、そのニボルマブの「臨床現場における実像」を検証します。

優れた治療効果を実感

 従来のがんの3大治療(外科手術・化学療法・放射線治療)には、後遺症や副作用が伴います。なかでも、化学療法と放射線治療は患者さんの活力を奪い、その結果、免疫力の低下を招いて再発リスクを高めてしまうことも示唆されています。
 免疫チェックポイント阻害剤が登場し、がん治療の領域では〝免疫新時代〟を迎えました。そのような現在において、化学療法や放射線治療の治療意義に疑問が提起され始めています。
 〝免疫新時代〟に突入し、当クリニックでも、肺がんや頭頸部がん、大腸がんの患者さんに対し、ニボルマブを使用し始めています。
 ニボルマブを用いたがん治療では、治療開始から3カ月以上が経たないと、その抗がん効果は望みにくいと言われていますが、私の患者さんの症例から言えるのは、ニボルマブを用いたがん治療は、1カ月足らずで治療効果が現れるケースが少なくない、ということです。そして、特筆すべきは、この治療を受けた患者さんの活力が回復する点です。治療後に患者さんの体に活力が出てくることは、従来のがんの3大治療では考えられないことです。
 抗がん効果と活力の回復を一挙に獲得する治療法としては、一昔前から免疫治療が最も有力だとされてきました。ただ、一昔前の免疫治療は、必ずしも理想通りの結果を獲得する確実性が乏しかったのは否めません。そのような問題を抱えていた免疫治療ですが、ニボルマブの登場によって風向きが変わってきたのです。
 ご存知のように、免疫治療はがんの3大治療に次ぐ「第4の治療」と言われてきました。今までのがん治療は、手術が不適応なケースでは、化学療法や放射線治療が中心となって行われ、免疫治療はその補助的な役割として捉えられていたのです。
 しかし、〝免疫新時代〟を迎えた現在、化学療法・放射線治療と免疫治療は主客転倒した感があります。つまり、がん治療の中心を担っている化学療法・放射線治療と、その補足的な位置づけにあった免疫治療の評価が徐々に逆転しつつあるように思えるのです。それは、私同様に、多くのがん専門医が、ニボルマブの優れた治療効果を実感しているからではないでしょうか。

がん新生抗原に注目

 先述のように、ニボルマブに代表される免疫チェックポイント阻害剤は、免疫治療の1つとして考えられています。従来の免疫治療は、患者さんの免疫力を向上させ、がん細胞への攻撃力を強化することに主眼が置かれていました。しかし、免疫チェックポイント阻害剤は、同じ免疫治療でも、従来の免疫治療とは機序が異なります。
 免疫細胞は、一般に体内に侵入してきた細菌やウイルスなどの病原体や体内にできたがん細胞などを攻撃しようとする働きがあります。ところが、がん細胞の表面にある「PD–L1」というタンパク質が、免疫細胞の分子「PD–1」に働きかけると、免疫の攻撃にブレーキがかかってしまいます。この対応関係は「免疫チェックポイント」と呼ばれています。
 元来、PD–1は免疫応答が過剰に働くことを抑制するための分子なのですが、がん細胞はその機序を逆手にとって、免疫系の働きにブレーキをかける仕組みを獲得してしまっています。その免疫チェックポイントを無効にして、免疫細胞を覚醒させ、がん細胞を攻撃できるようにするのが免疫チェックポイント阻害剤です。言うなれば、この薬剤は、免疫反応の改善薬なのです。
 この〝免疫改善薬〟は、その作用によって免疫反応を起こす、がん治療の領域における重要なキードラッグとなっています。さらに、この〝免疫改善薬〟は、免疫系のターゲットとなる「がん表面の抗原」としての働きも大きく関わっています。
 従来は、多くのがん患者さんに共通する抗原をターゲットとしていました。その「共通がん抗原」とは多くのがんに共通しているペプチドですから、がん細胞から誰もが保有しているものをサンプルとして取って、ワクチンとして使うという考え方です。
 しかし、その従来の考え方では、免疫原性(免疫反応を引き起こす性質)が低くなってしまいます。というのは、多くのがんに共通しているペプチドは、〝自己〟と同形に近く、異物として認識しにくいのです。そのため、今は遺伝子変異に由来するがん新生抗原(腫瘍特異的変異抗原)という、個々の患者さんごとの独自の抗原が注目されています。この抗原は、とても免疫原性が高く、優れた免疫反応の作用を持ち合わせています。簡単に言えば、がん新生抗原には、〝自己〟とは異なる非自己性、つまり異物性が多分にあるのです。したがって、ペプチドワクチンを選定するにあたっては、その患者さんのがん独自の特徴的なものを選ばないと、免疫反応は起こりにくいのです。
 がん新生抗原に着目した免疫チェックポイント阻害剤による単独治療でも効果が乏しい場合は、それにペプチドワクチン・樹状細胞治療や活性化リンパ球治療を併用することで、より高い免疫反応が期待できます。
 ペプチドワクチン・樹状細胞治療は、患者さんの血液から採取した樹状細胞の基となる単球を体外で培養し、複数のサイトカイン(細胞の増殖や活性化に関わるタンパク質)や人工抗原(がん細胞の目印となる物質)、分子標的処理、あるいは免疫賦活剤などを用いて改良した樹状細胞を患者さんの体内に還元する治療法です。
 免疫反応性に関しては、新生抗原数(がんの変異性)と治療効果を考えると、変異しやすいがんのほうが治療効果は高いと言えます。たとえば、メラノーマや肺がん、腎がんといった変異性の高いがん種は、自ずと悪性度も高くなります。ここで言う悪性度とは、がん細胞の増殖力が高いことで、そのような性質が悪いがんに対しても、がん新生抗原を用いた「新しい免疫反応」は効きやすいと考えられます(図1参照)。さらに言えば、たとえば、ダブルキャンサー(二重がん)やトリプルキャンサー(三重がん)など、意気消沈するような非常に悪性度の高いケースでも、効果が期待できるようになったのです。


図1 免疫の反応性

 また、昨今、がん治療の領域では、抗腫瘍効果の高い分子標的治療薬が続々と登場し、がん治療は個別化の時代に突入すると言われていました。しかし、その分子標的治療薬には、劇的な効果と共に、耐性による「がんの再増殖」という問題も立ちはだかっています。そのようななか、免疫チェックポイント阻害剤が着目されるようになったのは、がん細胞を標的としない免疫を操作する抗体を投与するだけで、メラノーマや肺がんなどに、劇的で、かつ持続性のある抗腫瘍効果を誘導することがわかってきたからです。これらの治療効果にも、がん新生抗原が関与していることが解明されています。
 要は、がん新生抗原に注目し、ニボルマブにペプチドワクチン・樹状細胞治療や活性化リンパ球治療などを併用することで、それまで短期的だった抗がん効果が永続的になったのです。

効果永続のために

 ニボルマブを用いたがん治療の成功のポイントは、2つあります。それは、「免疫系の働きの阻害因子を抑えること」と「免疫系への継続的な刺激を与えること」です(図2参照)。そして、治療と併せ、普段のモニタリングが大事です。つまり、CTC(Circulating Tumor Cell:血中循環腫瘍細胞)検査や免疫解析を行いながら、阻害因子を抑えたり、継続的な刺激を与えたりすることが大切なのです。


図2 二ボルマブを用いたがん治療の成功のポイント

 免疫系の働きの阻害因子の最大の温床は腫瘍間質です。間質のなかには、Treg(制御性T細胞)や繊維芽細胞などが存在しています。とりわけTregは壁の中心とされ、繊維芽細胞や液性の抑制因子の働きを支配しています。胃がん・膵がん・乳がん・悪性リンパ腫・卵巣がんといったがん種では、Tregの局所集積が多いほど、つまり〝壁〟が厚いほど予後(生存率)が不良になると言われています。
 「免疫系の働きの阻害因子の抑制」には、免疫解析を行い、それに則して、ニボルマブに、スパークシャワーリンパ球治療などを併用するのが得策です。
 ちなみに、スパークシャワーリンパ球治療とは、リンパ球治療を行う前に、目標となるがんに対し、EH波(超短波)のシャワー温熱によって予備加熱を行うものです。そうすることで、がん細胞自体の温度が上昇し、リンパ球が予備的に活性化を始めるのです。その後、体外で培養したリンパ球を点滴で投与しながらスパークシャワー治療を行うと、抗がん効果が高まるのです。
また、「免疫系への継続的な刺激を与える」ということについては、CR(完全寛解)の後も、継続的刺激として2年間ほど、1~3カ月の割合でペプチドワクチン・樹状細胞治療を行うのが良策だと考えます。
 こうしたニボルマブを投与した後の〝アフター・ニボルマブ〟も重要なのです。

(2015年10月30日発行 ライフライン21がんの先進医療vol.19より)

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