シリーズ 先端医療 ―樹状細胞療法― ⑮

難治がん・転移がんの集中治療・往診治療
熱ショックでがんの壁を破る!(スパークシャワー)


星野泰三
東京・大阪・京都統合医療ビレッジグループ 理事長・プルミエールクリニック院長

 がんには〝壁〟が存在します。それを突き破るには、短い期間で3つのステップを踏破する集中的治療を行わなくてはなりません。なぜ短期間集中治療が必要なのかと言えば、長い時間をかけて治療していると、その間に病態ががん特有の「負のスパイラル」に陥ってしまうからです。この悪循環を断ち切るには、本稿のテーマである「がんの壁を破る」ということが不可欠になってきます。そして、現在、がん免疫治療の領域において、抗PD–1抗体に代表されるがんの壁を破るための薬剤が注目され始めています。
 今回は、当院が実施している短期集中治療のなかで、がんの壁を破ってがん完治の近道へと導く、熱ショックを応用したスパークシャワー治療をご紹介します。

がんを消す3つのステップ

 先述の3つのステップの1番目は「体質改善」です。そして、2番目が「がんの壁を破る」、3番目が「抗がん免疫力をアップさせる」です。この3ステップを順序通りにスピーディーに行います。
 体質改善、がんの壁を破る、抗がん免疫力をアップさせる……といった3点は、いずれも免疫治療を前提としたものです。つまり、免疫治療を受け入れる体は、その働きがぴたりと歯車が噛み合った正常なものでなくてはいけないのです。
 私たちの体を1つの機械に例えると、その働きを支える血液はエンジンオイルにあたります。エンジンオイルによって機械は円滑に働き続けることが可能になります。そして、そのように血液が働くために不可欠なのが、栄養・抗酸化・代謝です。
 がん治療の1つに食事療法がありますが、そのなかには極端にタンパク質や脂質を排除するものがあります。しかし、極端なタンパク質不足や脂肪不足の状態では、免疫治療を受け入れる体質として好ましい状態だと言えません。たとえば、スピードを出すために車のエンジンを軽量化させても、その耐久性が弱くなってしまえばエンジンは壊れてしまいますし、ガソリンという栄養はとても大切なのです。
 また、体は錆びついてはいけないので、抗酸化体質も必要です。さらに、エンジンを温めるためのアイドリング、つまり車輪の回転にあたる代謝も不可欠です。そのような条件を維持して免疫治療を受ける態勢を整え、がん治療の最大の障害であるがんの壁を取り払う工夫を凝らすわけです。
 先述のように、当院では、がんの壁を破るために、スパークシャワー治療を行っています。
 こうしてがんの壁を壊した後に、強い抗がん効果を持つ免疫治療を実施します。熱ショックを応用したスパークシャワー治療と免疫細胞治療を行うことで、免疫細胞のがんへの接着力が向上し、免疫細胞治療の効果もよりアップするのです。

熱ショック① がんの壁を破る

 がんの壁は、間質と液性因子に大別できます。
 間質のなかには、Treg(制御性T細胞)や繊維芽細胞などが存在しています。とくにTregは壁の中心とされ、繊維芽細胞や液性の抑制因子の働きを支配しています。ちなみに、胃がん・膵がん・乳がん・悪性リンパ腫・卵巣がんといったがん種では、Tregの局所集積が多いほど、つまり壁が厚いほど予後(生存率)が不良になると言われています。
 がんが壁を築くにあたり、きわめて重要な因子とされているのが液性因子「TGF–β(トランスフォーミング増殖因子ベータ)」です。つまり、がんの壁はTregとTGF–βが、野球で言うところの3番打者・4番打者のように、中心を担っているのです。
 その他の液性因子としては、IL(インターロイキン)–10やPGE(プロスタグランジンE)2、VEGFなどが挙げられます。IL–10は免疫バランスを悪化させる作用があり、PGE2は疲労物質で、VEGFはがんの血管内皮細胞を増殖させます。
こうしたがんの壁を突破する治療として、当院では先述のスパークシャワー治療を行っています。
 スパークシャワー治療は、扇型に電磁波を放散させ、徹底的に病巣を叩く局所タイプの温熱治療です。がん細胞の核は分子量が高く電磁波を放散すると、細胞内に熱を溜め込み自ら熱を発しやすい性質を持っています。
 がんは核が非常に大きく、正常細胞は水分(細胞質)が多いのです。つまり、電離抵抗が大きいがん細胞は熱に弱く、その反対に正常細胞は熱に強いのです。この性質・構造上の仕組みの違いである電離抵抗の差(オームの法則)を利用するわけです。
 スパークシャワー治療によって電磁波を流せば、電磁抵抗が大きいがん細胞は42~46℃に、正常細胞は38~39℃に加温されます(図1参照)。
 42℃以上という熱は、がんやその壁がアポトーシスを起こす温度です。また、38~39℃は、リンパ球や樹状細胞が活性化される温度です。したがって、体を加温することで弊害が生じるわけではありません。ただ、炎症反応による発熱の場合は、それが続くと、体内でプロスタグランジンという物質が出てきて、やがて免疫力が下がり、免疫反応が終焉に向かってしまいます。その点、スパークシャワーは人工的に外部から加える熱ですので、病気などによる炎症反応とは異なるのです。
 いずれにしても、こうした電離放散によって、がんとその壁は破壊され、きわめて熱に弱いという性質を持っているTregの数と働きを抑える効果が期待できるのです。
 また、がん本体と、壁の中にあるTregには相互作用があります。ですから、スパークシャワー治療によって、がん本体を弱らせるだけでもTregの数を減らし、がんの壁を弱体化させることに繋がります。そして、がんの壁を壊すことによっても、TGF–βを代表格とするがん増殖因子を抑えることができます。
 という理由から、スパークシャワー治療によって、がん細胞とその壁となっているTregを抑えることができる、というわけです。スパークシャワー治療によるがん治療は、免疫応答を誘導するとともに、Tregにいかなる変化を及ぼすのかも大切なことなのです。


図1 スパークシャワーの原理

熱ショック② 免疫力を上げる

 がん細胞によって誘引、あるいは活性化された炎症細胞や繊維芽細胞は、いろいろなサイトカインや増殖因子を分泌します。そして、がん細胞の増殖や浸潤により、がん化をさらに進展させます。このがん細胞を取り巻く細胞外マトリックスやストローマ細胞の変化は、「がん微小環境」と言われ、現在、がん治療の領域において大きな注目を集めているのです。
 また、免疫システムはがん抗原の認識を介してがん細胞を攻撃し、排除しようとします。それに対し、がん細胞は多様な免疫抑制機構を獲得することで、その攻撃からの逃避ができるのです。このような現象は、進行した状況のがんの病態で多く見られます。
 スパークシャワー治療によって、がんおよび間質周囲の温度は、38~39℃になります。すると、キラーT細胞や樹状細胞といった免疫細胞のがんへ向かっていく遊走能や、パーフォリンなどの抗がん酵素、あるいはIL–12などの抗がんサイトカインが出てきて、免疫細胞そのものの働きが向上します。つまり、免疫細胞のがんへの接着能が高まるのです。
 先述のように、スパークシャワー治療による熱ショックの効果の1つに「がんとその壁を破壊する」という作用があります。そして、もう1つ、熱ショックによって誘導されたHSP(ヒートショックプロテイン:熱ショック蛋白)によるキラーT細胞と樹状細胞の機能を上げる作用が挙げられます。
 スパークシャワー治療には、リンパ球中の抗がん酵素を放出させる効果があります。がん細胞付近をめがけてスパークシャワーの電磁波を放散すると、リンパ球が活性化され、リンパ球が持っているパーフォリンとグランザイムという2種類の抗がん酵素が放出されやすくなるのです。
 それと、スパークシャワー治療によってがん抗原が段々と表面に出てくるようになります。そして、はっきりとしてきたがん抗原を目印として、活性化されたキラーT細胞や樹状細胞ががんやその壁を叩くのです。つまり、スパークシャワー治療によって、がんとの接着能が良くなった免疫細胞が、より効果を発揮させる、というわけです(図2参照)。


図2 スパークシャワーによる免疫細胞の働き

 ちなみに、抗原提示細胞であるマクロファージはヘルパーT細胞が放出するサイトカインによって単球が分化した細胞で、がん細胞周囲に高頻度に存在します。そのマクロファージに関しては、40℃に加温すると貪食能が4割ほどアップしたという報告もあります。
 熱ショックによるHSPの発現によって、がんとその周囲の微小環境が改善した結果、がんの壁は壊れ、がん自体も壊れていくのです。要は、スパークシャワー治療は、患者さん自身の免疫力を向上させてがんとその壁を壊す、とても体にやさしい治療法であると言えるのです。
 がんの壁を標的とする治療法は、がん医療の1つの新機軸になりつつあります。これからのがん治療は、がんだけではなく、その周囲の環境との関係を把握しながら行う方向に進んでいるのです。こうした治療こそが、がんの壁を破り、樹状細胞治療をはじめとする免疫細胞治療の効果を向上させます。
 今回、取り上げたスパークシャワー治療は、元々、当院の看板治療の1つです。昨今、樹状細胞治療を代表格とする特異的な免疫治療の効果を向上させるには、障害になっているがんの壁を取り払わなければいけません。その意味で、スパークシャワー治療は非常に効果的な治療で、免疫細胞治療の精度が上がれば上がるほど、その補助的な働きが改めて重要視されているのです。

(2014年10月30日発行 ライフライン21がんの先進医療vol.15より)

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