「油」の問題は欧米社会では国レベルで取り組んでいる
毎日摂ったほうがいい油と、一生避けて通りたい油
半田えみ 医療法人社団 中成会 半田醫院
みなさんは毎日、習慣づけて食べているものはありますか? 食べ物はこれ1つだけ食べればよいというものではありませんが、日々の食事のなかで、基本のものでいいものを続ける大切さということはあると思います。たとえば、ご飯は玄米、毎朝梅干しに緑茶、ぬか漬、岩塩、納豆やお味噌などの発酵食品を摂るなどといった簡単な習慣です。
今回は、私が毎日必ず食べる油についてお話ししてみたいと思います。そして、私の友人でイタリア食研究家の粉川妙さんからいただいたオリーブオイルの情報も交えてお伝えします。
日本は間違った油神話でマインドコントロールされている
さて、病気と油と言われて、みなさんあまりピンと来ないかもしれませんね。日本では油に関しての知識と情報量が大変低いのに比べ、欧米社会での国レベルでの取り組みの早さや国民の油に対する昔からの知識が豊富なのには驚きます。みなさんの記憶に新しい特定保健用食品と指定されたオイルが、実は発がん性があり回収され、食育が脚光を浴びていますが、未だ幼稚園や学校給食で堂々とマーガリンが出されています。お店で売られているパン粉、お菓子、パンなどにもマーガリンとショートニングが使われていないものを探すほうが困難な日本はいかがなものでしょうか。
油ひとつを取りましても、私たちは毎日どれだけの発がん性物質を体内に取り込んでいるのでしょうか。そして、間違った油神話です。「油は太る」「油は血液ドロドロ」「油はコレステロールが上がる」などといった情報でマインドコントロールされています。
すべての油が体にとって敵ではありません。毎日摂ったほうがいい油と、一生避けて通りたい油があります。栄養学的にお話ししますと、油や脂肪に含まれる「脂肪酸」という物質があります。これは、ビタミンやミネラルなどと同じ自然界にある大切な栄養素です。この脂肪酸がどういうものであるのかをきちんと理解することで、健康を保つ油と病気を起こす油の違いがわかることでしょう。
油は生鮮食品である低温圧搾で生で食べることが望ましい
飽和脂肪酸はバター、ラード、動物の肉の脂身など、不飽和脂肪酸のω9にはオリーブ油、キャノーラ油(菜種油)、サフラワー油(ベニバナ油)、ピーナッツ油、米ぬか油などがあり、ω6はコーン油、ヒマワリ油、サフラワー油、大豆油、ゴマ油、クルミ油、アーモンド油など、ω3は亜麻仁油、エゴマ油、シソ油、青魚の油などです。
油の摂取を考えるときに「体内で産生できるかできないか」「油は生鮮食品である」「圧搾法」という要素も重要になります。
飽和脂肪酸と一価不飽和脂肪酸は体内でつくることのできる脂肪酸です。多価不飽和脂肪酸のω6とω3の脂肪酸は体内でつくることができないので、必須脂肪酸と呼ばれます。体内でつくられない必須脂肪酸は口から食べる必要があります。
では、どんな形で口にすればよいのでしょうか。
油は生鮮食品であると認識し、高温・光・酸素にさらされると酸化されてしまうので低温圧搾がよく、生で食べることが望ましいのです。では、実際に私たちは、ω6とω3のオイルをどのくらい食べているのでしょうか。ω3の摂取は少なく、ω6に属するリノール酸をω3の脂肪酸より10~20倍も多く摂取しているとの報告もあります。そのため、生活習慣病、アレルギー、うつ、成長障害、ホルモンバランス障害、がん、自己免疫疾患などの病気の一因になっています。しかし、不足するω3の脂肪酸(亜麻仁油など)だけを強化するとω6が不足して別の健康障害が出てくるとのことです。
もうひとつ、不自然な脂肪酸であるトランス型脂肪酸というものがあります。これは、油を高温加熱加工する過程で化学的に水素を添加し、常温では液体であるはずの植物油を固形化させてしまった油です。マーガリン、ショートニング、植物クリーム、コーヒー用クリーム、菓子類などに多く含まれており危険な油とされ、欧米社会ではすでに使用制限の対策が取られ始めています。
がんを発症する段階で、〝炎症〟が密接に関与している
さて、基本的な脂肪酸の話題に続き、がんの栄養療法においての必須脂肪酸であるω3の役割についてお話ししたいと思います。
がんが発症するまでには、いくつかの遺伝子変異を段階的に経て進んでいきます。
第1段階=①加齢、食事、アルコール、ストレス、タバコ、紫外線、放射線、ウイルスなどにより遺伝子変異が起こります。②がん遺伝子に傷がつき、さらにがん抑制遺伝子にも傷がつきます。
第2段階=①遺伝子に傷のついた細胞は、がん細胞化して増殖し悪性化していきます。②がん細胞の分裂・増殖が進み腫瘍化し、腫瘍に栄養を与えるための血管新生が始まりさらに成長していきます。
第3段階=①がんの成長が促進し他臓器に転移をします。②栄養状態が悪くなり全身衰弱します。
これらの、がんを発症する段階に〝炎症〟が密接に関与することがわかってきました。第1段階でいろいろな内的、外的要因に長期間さらされ炎症が長引きますと、体内でフリーラジカルが発症し、細胞のDNAを傷つけます。
また、炎症性に血管新生は起こります。個々のがんでは、ヘリコバクターピロリと胃がん、B型やC型肝炎ウイルス感染症と肝がん、パピローマウイルスと子宮頸がんなど多くのがんの発症に炎症が関わっていることが知られています。がんに炎症が関わることがわかり始めてきたことは、がんの予防や治療の段階でも炎症を抑える食事をすることや、栄養療法をする意義も大変大きくなってきたといえると思います。がんが発症する前の予防のうちから、抗炎症作用のある食生活を心掛けるとよいでしょう。
抗炎症作用のある食生活と亜麻仁油オイルの効果
では、実際に炎症を抑える食事ですが、ビタミンA、C、Eなどがたくさん含まれるオーガニックの緑黄色野菜や果物をたっぷり摂りましょう。新鮮な野菜や果物には酵素もたくさん含まれますし、ビタミンA、C、Eにはフリーラジカル除去効果もあります。食物繊維も多いのでデトックス効果もあります。天然のサーモン、青魚などには抗炎症作用を持つビタミンDが豊富です。
全粒粉のパン、玄米、体内の毒素を運び出す水も大切です。肝機能を高め、炎症の原因となる毒素の排泄を促すために、にんにく、玉ねぎ、ゴボウ、しょうが、ウコンなどがよいでしょう。
そして、油は亜麻仁油などの必須脂肪酸です。亜麻仁油に代表されるアルファリノレン酸を豊富に含む油には、抗炎症作用があります。私は、このω3を代表する亜麻仁油を中心にω6の油がブレンドされたオイルを毎日欠かさず摂っています。もちろん、オーガニックで低温圧搾されたオイルを生のままでいろいろな食材に振りかけて食べています。
私の医院の患者さんにはがんだけでなく、アレルギー性鼻炎、慢性関節リウマチ、高脂血症、高血圧症、脳梗塞、アトピー性皮膚炎、うつ、便秘症などたくさんの病気治療にこのブレンドオイルを使用しています。
さらに、亜麻仁に関しては女性ホルモンとの関わりもあるのです。エストロゲンとは、エストロン、エストラジオール、エストリオールの3種を総称したものです。これらのエストロゲンが尿中に排泄される量を測定し、それぞれの絶対量とその相対比率ががんを予防するうえで重要な意味を持ってきます。エストロゲンは主に卵巣でつくられますが、肝臓での酵素システムにより解毒されます。この酵素システムが効果的に働かないと、女性は潜在的にがんを引き起こすタイプのエストロゲンをつくり出していく可能性があります。
エストロゲンは、エストロンとエストラジオールに転換され、さらに肝臓で解毒物質と結合または化合してエストリオールとなり尿中に排泄されます。肝臓で無害なエストリオールに解毒されていかなければ、エストロン、エストラジオールが蓄積され乳がんや子宮がんになる危険性が高まってきます。実際のデータでも、植物性栄養素の豊富な食事にすることで肝臓の解毒能力は高まり、無害なエストロゲンの尿中排泄が高まってくることが実証されています。
野菜の細胞にはリグニン(食物繊維の一種)が多く、食事として入りますと消化管で一部消化、腸内細菌で代謝され哺乳類リグナンやエストロゲン作用を持つエンテロラクトンに変換されます。この哺乳類リグナンは、腸から血中に吸収され肝臓のエストロゲン代謝は促進されます。体内でのエストロゲンの分泌が多いときはエストロゲンの働きを阻止し、分泌が少ないときはエストロゲンのように作用することがわかっています。このリグナンは植物の茎、根、種に含まれており、特に有機の亜麻仁の種には大量に含まれています。亜麻仁の種(粉末にして食べる)は、女性にとっては植物性エストロゲンとしての働きを得られるのです。
オリーブオイルはバージンオイルが基本
最後に、オリーブオイルのお話です。古代ギリシャの医師ヒポクラテスは、紀元前4世紀にすでに「医食同源」を唱えていました。彼は「オリーブオイルに治療効果がある」と賞賛し人々に勧めていたそうです。「医食同源」は、私たちのいるアジアでも本来、基本の医療にあったはずですよね。
ギリシャ人はイタリアにもオリーブを持ち込み、中世以降は薬にもオリーブオイルが使われ、打ち身や軽いやけどには薬草とワインに混ぜて2週間ほどなじませ患部に塗るそうです。南イタリアに創設された世界最古のサレルノ医学校では食事療法が積極的に行われ「養生訓」がつくられ、食、入浴、睡眠、アロマについて規定しています。
食については、オリーブオイルやハーブ、果実、豆などの摂取を勧め、さらにこの教えはヨーロッパの他の国々にも広まっていきました。その後、「養生訓」やヒポクラテスの教えが科学的にも実証され、「地中海式ダイエット」と呼ばれているものにつながっています。
イタリアではオリーブオイルが推奨され、一番搾りのバージンオイルが基本だそうです。酸化を避けるため生で食べ、起床時にティースプーン2杯のオイルがお腹を整えます。また、髪や手に塗ったり、日々の暮らしのなかで大活躍しているそうです。
みなさんのオイルの常識が、今回のお話しで、少し変わったでしょうか……?
(2011年7月20日発行 ライフライン21がんの先進医療vol.2より)
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(出所:厚生労働省ホームページより転載)
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資料提供:日本ホスピス緩和ケア協会 http://www.hpcj.org/list/relist.html
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(出所:厚生労働省ホームページより「がん医療」関連に限定して転載)