シリーズ 先端医療 ―樹状細胞療法― ④

世紀の大発見 祝ノーベル賞
がん治療が一変するこんなにもすごい樹状細胞療法
~ここまでわかった 役割から臨床効果まで~


星野泰三
東京・京都統合医療ビレッジグループ理事長 プルミエールクリニック院長

ノーベル賞受賞で、ますます注目される樹状細胞療法

 2011年のノーベル医学・生理学賞は、ブルース・ボイトラー米国スクリプス研究所教授のブルース・ボイトラー氏、フランス分子細胞生物学研究所前所長のジュール・ホフマン氏、米国ロックフェラー大学教授のラルフ・スタインマン氏の3人が受賞しました。ボイトラー、ホフマン両氏は「自然免疫の活性化に関する発見」が、スタインマン氏は「樹状細胞と獲得免疫におけるその役割の発見」が評価されました。
 この「2011ノーベル医学・生理学賞」の発表において、とりわけ私が嬉しかったのは、スタインマン氏の「樹状細胞と獲得免疫におけるその役割の発見」が世の中に認められたことです。
 スタインマン氏は、世界で初めて樹状細胞を発見し、その役割を解明した研究者として知られています。スタインマン氏の研究がなければ、本連載でも取り上げている樹状細胞療法は開発されていなかったかもしれません。
 スタインマン氏は、カナダのマギル大学を卒業後にハーバード大学医学部で医学博士号を取得しています。その後、アメリカのロックフェラー大学に所属し、樹状細胞の研究に取り組んだそうです。
 また、スタインマン氏はノーベル賞の授与が発表される3日前に死去していますが、今から4年ほど前に膵臓がんを患い、樹状細胞療法によって延命していたそうです。つまり、自らが長い歳月を費やして研究し続けた研究の成果を身をもって提示したと言えるのかもしれません。
 現在のノーベル賞の規定では「死者には賞を授与しない」とされているそうですが、ノーベル財団とカロリンスカ研究所(ノーベル賞の医学・生理学部門選考委員会が存在する機関)が対応を協議した結果、「スタインマン氏の場合は、授賞決定の時点で財団と選考委員会が本人の死去を把握していなかった事情を考慮し、授賞者の選考がスタインマン氏本人の存命の前提で行われた」ということを再確認したそうです。そのうえで、「授賞決定後に本人が死去した場合はその授賞を取り消さない」とする同賞の規定に準ずる扱いとして、スタインマン氏に賞を贈ることになったというわけです。
 いずれにしても、休日も、あるいは体調が優れない日も研究に打ち込んでいたというスタインマン氏が「樹状細胞と獲得免疫におけるその役割の発見」によって世界的な賞を受賞したことで、樹状細胞療法は日米を中心にさらなる進化を遂げていくはずです。
 私も、がんの免疫細胞療法に携わる医療者として、樹状細胞療法の発展・普及に注力していきたいと考えています。

樹状細胞の特徴・種類・役割

 では、2011年のノーベル賞の医学・生理学賞の〝主役〟となった「樹状細胞」とはどのようなものなのでしょうか? その特徴としては、まず名前に冠されているとおり、木の枝のような形態をした突起を伸ばしてがんに付着し、その抗原を取り込み、他の免疫系の細胞に伝える働きを持っていることが挙げられます。
 樹状細胞は、MHC(主要組織適合抗原複合体)分子の上に抗原ペプチド(免疫反応を引き起こさせる物質)を乗せ、αβT細胞(T細胞はαβT細胞とγ∂T細胞に分かれている)にそれを提示する抗原提示細胞です。マクロファージ(免疫システムを担うアメーバ状の細胞)やB細胞も抗原提示をする働きを持っていますが、抗原に曝露されていないナイーブαβT細胞に抗原を提示し、それを活性化させることが可能なのは樹状細胞だけです。
 さらに、樹状細胞は、αβT細胞以外のリンパ球、つまりNK(ナチュラルキラー)細胞、NKT細胞およびγ∂T細胞を誘導する作用を持ち合わせています。ですから、樹状細胞は、免疫応答における〝司令塔〟の役割を担っていると言えるのです。
 こうした樹状細胞は、「mDC(Myeloid dendritic cells)」と「pDC(Plasmacytoid dendritic cells)」の2種類に分類されています。mDCは抗原の取り込みが強く、活性化するとインターロイキン(IL)–12(樹状細胞をはじめ、マクロファージや腸粘膜のM細胞などからつくられるサイトカインで、インターフェロンなどの仲間でもある生理活性物質)を産生する骨髄系樹状細胞で、pDCはウイルス感染により大量のⅠ型インターフェロン(ⅠNF)を産生する形質細胞様樹状細胞です。
 mDCとpDCは、主に骨髄系およびリンパ系に分化した前駆細胞(幹細胞から特定の体細胞や生殖細胞に分化する途中の段階にある細胞)に由来すると考えられています。mDCとpDCの共通した前駆細胞は、骨髄系前駆細胞、顆粒球・マクロファージ前駆細胞のほか、割合は少ないもののリンパ系前駆細胞からも分化すると考えられています。
 また、樹状細胞は、異物を認識して自然免疫に関与するとともに、外来性抗原を取り込み、所属リンパ節を遊走し、αβT細胞に抗原提示を行う「抗原特異的な獲得免疫」において重要な役割を担っています。そのため、それぞれの機能に関連する多数の表面内分子を発現しています。
 先述のmDCが産生するIL–12は、T細胞やNK細胞などから産生されるINF–γの産生を誘導します。そのINF–γが樹状細胞を刺激すると、マクロファージが活性化して、自然免疫の働きがより高まっていくのです。

樹状細胞は、こうしてがんを治す

 前記したように、樹状細胞は免疫の司令塔の役割を担う重要な細胞です。標的となるがん細胞を取り込み、そのがん細胞が持つ抗原を自分の細胞の表面に提示します。このすぐれた抗原提示能力によって、T細胞などのリンパ球に抗原情報を伝え、それを強力に誘導します。
 そもそも人体における自然免疫は、マクロファージやNK細胞、NKT細胞、T細胞などが担当していますが、樹状細胞もそれらの細胞に勝るとも劣らない重要な役割を担っています。
 樹状細胞は、T細胞の免疫反応が開始されるとナイーブT細胞に抗原を提示し、エフェクターT細胞に分化・活性化するとともに、そのクローンを拡大することができる唯一の細胞です。
 それに対し、マクロファージは細胞性免疫応答において、すでに感作(1度、侵入してきた抗体をそのときに体が記憶し、2度目に侵入してきたときにすぐに攻撃できるようにしておくこと)されたエフェクター細胞(キラーT細胞、ヘルパーT細胞、サプレッサーT細胞、ナチュラルキラー細胞、マクロファージなどの強い攻撃力・処理能力を持つ細胞)およびメモリーT細胞(異物に対する細胞傷害活性を持ったまま宿主内に記憶された細胞)などに抗原提示します。ですから、樹状細胞とマクロファージの働きは異なります。
 また、樹状細胞は、標的となるがん細胞に接着し、それ自体の抗がん効果に加えてキラーT細胞を強力に誘導する作用を持っています。その働きによって、パーフォリンやグランザイムという抗がん酵素が放出されやすくなる、インターフェロンが産出されやすくなる、といった免疫的作用が期待できるようになるのです。
 樹状細胞の抗原提示ですが、細胞内由来の「内因性抗原」はMHCクラスⅠ分子(有核細胞と血小板の細胞表面に存在する糖タンパク)を介して細胞傷害性を有するCD+8T細胞(表面にCD8分子を発現しているT細胞)に、微生物などの「外来性抗原」はMHCクラスⅡ分子を介してヘルパー機能を有するCD+4T細胞(表面にCD4分子を発現しているT細胞)に提示されます。
 抗原を捕捉した樹状細胞はリンパ節を遊走し、ナイーブT細胞に抗原提示して活性化します。活性化したT細胞はエファクターT細胞およびメモリーT細胞に分化します。エフェクターT細胞から分化されたエフェクター細胞傷害性T細胞はCD+8エフェクターT細胞であり、MHCクラスⅠ分子やペプチド複合体を発現する感染細胞や腫瘍細胞を傷害します。そして、CD+4エフェクターT細胞は、サイトカイン分泌を介して、細胞傷害性T細胞やマクロファージを活性化するとともに、抗原特異的な抗体産生に関わるB細胞の分化を誘導するのです。
 いずれにしても、がん患者さんの免疫状態、つまり樹状細胞やキラーT細胞、NK細胞などの働きは弱くなっています。そこに患者さんの血液から樹状細胞の元になる細胞(単球)を採取し、体外で培養した後、再び樹状細胞を投与し、キラーT細胞やNK細胞などの細胞を活性化させるのが樹状細胞療法です。この治療法のキーポイントになり得るのががん抗原(がん細胞の表面に出ているタンパクの断片=ペプチド)です。と同時に、樹状細胞が出すIL–12に、その原動力があるのではないかと私は考えています。
 IL–12は、骨髄前駆細胞に作用し、NK細胞やT細胞などの免疫細胞を生み出し、かつ活性化させる働きがあります。さらに、体内の血液中に出てくると、NK細胞やTNK細胞、LAK細胞を刺激してINF–γの産生を促し、そのINF–γが特異的キラーT細胞を活性化させます。
 このような樹状細胞療法のメカニズムが、リンパ節において免疫応答を起こし、ヘルパーリンパ球に情報を与え、キラーリンパ球を強力に誘導していくのです。
 その抗がん力をさらに生かすため、私たちは先述の樹状細胞療法に工夫を凝らしました。それは、患者さんの血液から採取した樹状細胞の元になる細胞を、複数のサイトカインや人工抗原、免疫賦活剤などを用いて改良し、「生きたがんワクチン」として十分に働けるだけの能力(がん情報)を備えて体内に戻しています。このような状態で、リンパ球の司令塔である樹状細胞を患者さんの体内に戻すことで、リンパ球は活性化し、選択的・効率的にがんを狙い撃ちするのです。
 ラルフ・スタインマン氏が情熱を注いできた樹状細胞の研究は、がん治療の領域で多くの患者さんに恩恵をもたらしているのです。

(2011年12月20日発行 ライフライン21がんの先進医療vol.4より)

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