シリーズ 治療効果をプラスする「最新のがん治療」
~さまざまながん種に対する免疫細胞療法の効果~
第4回 大腸がん
加藤洋一
新横浜かとうクリニック院長
私が院長を務める新横浜かとうクリニックでは、通院抗がん剤治療や免疫細胞療法、温熱治療、がん遺伝子検査などを駆使し、がん患者さんへの治療を行っている。その治療のコンセプトは「治療効果をプラスする治療法がある」。つまり、標準治療に他の治療をプラスし、少なくとも生存率を70~80%まで引き上げることを目指しているのだ。その切り札の1つである免疫細胞療法として、活性化リンパ球療法、がんペプチドを使った樹状細胞ワクチン療法、WT1 CTL療法などを実践している。
本連載では、これらの免疫細胞療法がそれぞれのがん種にどのような効果をもたらしたのか、というがん種別の症例を治療方針と共に紹介していく。第4回は、近年、増加傾向にある大腸がんを取り上げた。
「最新のがん治療」をプラスするタイミングも大切
以前、私は大学病院の消化器外科に籍を置いていたが、外科医になりたての頃、手術の技術に長け、尊敬する先生から言われたある言葉を覚えている。それは「名外科医になるには、手術がうまくいく患者さんを選ぶことだ」というものであった。その言葉を言い換えれば、「名外科医になるには、うまくいかない患者さんの手術をしないことだ」ということになる。
大学病院の外科では、教授、准教授、講師、有給助手、無給助手、研修医の優先順位で手術を行っていた。だから、無給助手だと月に1~2回、手術が割り当てられれば恵まれているほうであった。それでも経験を積んでいくと、以前にうまくいった手術のパターンと照らし合わせ、事前にシミュレーションして同様に乗り切る術を体得していく。
このシミュレーションで重要なのは、手術のタイミングを掴むことである。適切なタイミングを得て行われる名外科医と呼ばれる人の手術では、その手の動きは美しく、感動さえ覚えることがある。
うまくいくためのタイミングは、手術に限らず、抗がん剤治療や放射線治療にも通じる。この治療のタイミングを基準にしたものが、手術の時期、薬剤の種類や量などを定めた標準治療である。
従来と比較すると、がん治療のタイミングは的確になってきているものの、ほとんどの治療ががん種と患者さんの身長・体重だけで決定されている。これでは、患者さん1人ひとりに最適な治療を提供していると言えないのではないだろうか。
当クリニックでは、他の医療機関からの紹介状によってその患者さんの治療経過を把握しても、初診時に現在の病状やそれまでの治療などを聞くことにしている。そうすることで、それまでの病気に対する治療法のタイミングの良し悪しを判断し、その状況下における最高のタイミングで治療をスタートさせることができるのだ。
治療のタイミングが悪い場合は、医師側の原因によることもあるものの、その多くは患者さんの治療開始の延期によるものである。患者さんにすれば、同じ治療であれば今すぐに受けても1カ月先でも効果は同程度であると考えるかもしれない。しかし、進行がんや再発・転移がんの場合は、この1カ月の治療開始の違いが、後々、大きな差となってしまう。がん治療は、医師の治療計画に上手に乗ることができれば良いタイミングを掴むことができ、それがいい結果に繋がる可能性が高い。
常々、私は「『最新のがん治療』をプラスする」というテーマを掲げている。それに加え、少しでも多くのがん患者さんの治療効果を上げるために、「治療を加えるタイミング」も重視している。
3つの免疫細胞療法を柱に進行がん・難治がんと向き合う
がんの治療において、病期(ステージ)がⅠ期・Ⅱ期といった早期の場合は外科的手術をして、その後に経口の抗がん剤である程度の予防をすればいい。しかし、Ⅲ期・Ⅳ期といった進行期の場合は、早期のものと同じ治療を受けても5年生存率が50%以下になってしまう。つまり標準治療を受けても、その半数以上の方が亡くなってしまう。これは、もはや標準治療とは呼べないのではないだろうか。
そこで、先述の「『最新のがん治療』をプラスする」ということになるのだが、私は標準治療に他の治療をプラスし、少なくとも生存率を70~80%まで引き上げたいと考えている。そのために、活性化リンパ球療法、がんペプチド樹状細胞療法、WT1 CTL療法といった3つの免疫細胞療法を柱に進行がん・難治がんに対峙している。
活性化リンパ球療法は、患者さんから採取したリンパ球を増強させて体内に戻す治療法。主として患者さんのがん免疫力を上げることでがんを破壊する。
がんペプチド樹状細胞療法は、がん細胞の抗原情報をがんペプチド(がんの特異的抗原)として認識する樹状細胞を用いた治療法である。樹状細胞は、そのがん情報からがん免疫を起動するかを判断するといった、がん免疫システムにおいて重要な働きを持っている。このがんペプチド樹状細胞ワクチン療法は、患者さん自身が持っている免疫力をアップさせるので、他の治療法と併用しやすい。とりわけ活性化リンパ球療法との相性は抜群である。
WT1 CTL療法は、WT1抗原(小さなタンパク質のペプチドで、多くのがん細胞が持っている抗原)を認識した活性化リンパ球(WT1CTL:WT1特異的Tリンパ球)を用いた治療法である。がんを認識したリンパ球は、通常の活性化リンパ球に比べてがんに結合しやすいので、より高い効果が期待できる。ただし、その患者さんのがんがWT1抗原を持っているのか否か、HLA(ヒト白血球抗原)ががんワクチンに結合する型か否かの検査が事前に必要となる。
また、当院では、免疫細胞療法に加え、がん性疼痛緩和のための温熱療法や副作用の少ない抗がん剤治療、がん遺伝子検査などを用いて、標準治療よりも効果が期待できる治療法を選択肢として提示している。
薬剤耐性を獲得した進行性大腸がんに免疫細胞療法が奏効
今回のテーマである大腸がんは、直腸・結腸・盲腸にできるがんの総称で、女性よりも男性に多い。年齢別罹患率は、50歳代から増加し、高齢者ほど高い傾向が見られる。
大腸がんの手術は、早期の場合には、内視鏡的治療と外科的手術治療とに分けられる。進行・再発がんの場合には、直腸がんの局所再発であれば外科的手術治療の適応は少なくとも術前に根治が期待できることが原則となる。
放射線治療には、術後の再発抑制や術前の腫瘍量減量、切除不能転移・再発大腸がんの症状の軽減を目的とした緩和的放射線療法、肛門温存を目的とした補助放射線療法などがある。
抗がん剤治療には、進行がんの手術後に再発予防を目的とした補助化学療法と、根治目的の手術が不可能な進行・再発がんに対する生存期間の延長およびQOL(生活の質)の向上を目的とした治療法がある。
大腸がんに対し、有効かつ現時点で国内にて承認されている抗がん剤として、フルオロウラシル(5–FU)+ロイコボリン(アイソボリン)、イリノテカン、オキサリプラチンなどが知られている。5–FUはロイコボリンとの併用が多く、イリノテカンやオキサリプラチンとも併用されるケースが増えている。イリノテカンは、単独、もしくは5–FU/ロイコボリンと併用される。
現在、再発大腸がんの化学療法の第1・第2選択はFOLFOXとFOLFIRIである。FOLFOXとは、5–FUとロイコボリン、オキサリプラチンの3剤を併用する治療法である。FOLFIRIとは、5–FUとロイコボリン、イリノテカンの3剤を併用する治療法である。
こうした標準治療では効果を得られない患者さんが、当クリニックを受診する。そして、標準治療に「最新のがん治療」をプラスすることが得策だと判断した場合、患者さんとの話し合いのうえで免疫細胞療法を行う。今回は、そのなかで大腸がんに関する3つの症例を紹介する。
最初の症例は、Ⅳ期の結腸がんが多発リンパ節転移と皮膚転移を起こしたAさん(80歳代・女性)のケース。
Aさんは2006年6月に大学病院で上行結腸がんの手術を受けたが、リンパ節転移を取り除くことができなかった。その後はFOLFOXを開始し、そしてFOLFIRIとベバシズマブを併用するなどの治療を続行していた。しかし、抗がん剤の効き目がなくなった。加えて、足の皮膚に転移が見つかった。
2009年8月に当クリニックを受診し、がん遺伝子検査を行った。すると、薬剤耐性因子であるMDR–1のみの発現が認められ、WT1の発現は認められなかった。その結果を踏まえ、Aさんと話し合いのうえで、WT1ペプチドワクチン樹状細胞療法と活性化リンパ球療法を2週間おきに5回(1クール)行った。
すると、リンパ節転移は小さくなり、皮膚転移も少し退縮した(写真1参照)。また、GRN(リンパ球数とがん免疫活性度を表す数値)は4・7から6・0にアップし、CA19–9(消化器がんに用いる腫瘍マーカー)は26・9から11・7に低下した。
写真1 大腸がん:リンパ節転移、皮膚転移。治療後に退縮
次の症例は、直腸がんが肝臓とリンパ節に転移したBさん(60歳代・男性)のケース。
Bさんは、2009年3月、極度の便秘状態に陥り、地元の基幹病院を受診。検査の結果、直腸がんとその肝転移・リンパ節転移が見つかった。大学病院でFOLFIRI、FOLFOX+ベバシズマブ、セツキシマブ+イリノテカンなども効かなかった。そして、デクティベックスの投与も開始したが進行を止めることはできなかった。頃を同じく、当クリニックを受診。パニツムマブ(ベクティビックス)に加え、当クリニックではWT1ペプチドワクチン樹状細胞療法と活性化リンパ球療法を1クール行った。
その結果、当クリニックでの治療開始前に616・3だったCA19–9は40・6に、CEA(消化器がんに用いる腫瘍マーカー)は3048から427・3まで低下し、肝臓のいちばん大きな腫瘍は縮小した(写真2参照)。(2012年6月)現在、Bさんは無治療で、経過観察中である。
写真2 直腸がんが肝臓とリンパ節に転移。治療前(上)と治療後(下)
最後の症例は、大腸がんを原発とした20個以上ものがんが肝臓に転移してしまったCさん(60歳代・男性)のケース。
Cさんは、2009年7月、地元の総合病院において腹腔鏡下の上行結腸部分切除術を受けた。8月より他の病院でカペシタビン(ゼローダ)を1カ月、処方される。翌9月に当クリニックを受診し、10月よりWT1ペプチドワクチン樹状細胞療法と活性化リンパ球療法を1クール行った。この間、10月から多発肝転移に対するFOLFIRIとベバシズマブの併用を開始し、その後はFOLFOX4とベバシズマブに変更している。
当クリニックにおいて免疫細胞療法を始める以前に49・7だったCA19–9と639・6だったCEAは、1クールの終了時には、それぞれ23・0、144・7に低下した。そして、20個以上あった肝転移の腫瘍は減少した(写真3参照)。Cさんのケースは、抗がん剤に免疫細胞療法をプラスして著効した症例と言えよう。
写真3 抗がん剤に免疫細胞療法をプラスして著効した症例。20個以上あった肝転移の腫瘍が減少
今回、フォーカスした大腸がんの患者さんに限らず、当クリニックを受診する方は、進行・再発したがんを抱えている場合が多い。だから、私は「いかに1年間、がんを抑え込むか」ということをテーマに掲げている。1年間、上手にがんを抑え込めば、それが2年・3年へと繋がっていくと信じているからである。
(2012年4月20日発行 ライフライン21がんの先進医療vol.6より)
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(出所:厚生労働省ホームページより転載)
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資料提供:日本ホスピス緩和ケア協会 http://www.hpcj.org/list/relist.html
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(出所:厚生労働省ホームページより「がん医療」関連に限定して転載)