がん3大治療に並ぶ「栄養療法」
普段の食事と生活習慣を工夫して改善していく


半田えみ 医療法人社団 中成会 半田醫院

「汝の食事を薬とし、汝の薬は食事とせよ」

 ここ最近、私の周りでお2人の医療従事者の身内の方が、40代という若さでがん闘病の末他界されました。統合医療がなされていたかと言いますと、そうではありません。医療界でもまだまだがん統合医療という認知度は低いのだと考えます。10年前と比べてみれば、がんに限らず病気治療に対して統合的に治療する、オーソモレキュラーに基づく栄養療法を導入する傾向は増えてきていることは感じますが、それでもまだまだごく一部に限られているでしょう。
 今日、たまたま風邪で受診された女性との診察室での会話ですが、風邪よりも心配なことがあって……と、彼女は話し始めました。乳がんで手術を受け現在ホルモン剤を内服しています。最近生活環境や食生活ががらっと変わり、生活の中にストレスを感じ、がんの再発がとても心配でいられませんと言うのです。ストレスはがんに悪いのですよね?と質問もされました。この方も統合医療はまったくされておらず、がんに栄養療法や統合医療というものが存在することすらまったく知らない様子でした。ただ再発の不安を抱えているだけなのです。
 今回、改めて統合医療や栄養のことを考えてみました。
 私は、統合医療の中でも栄養の部分はすべてにおいての基本だと考えます。栄養療法は補完代替療法ではないでしょう。がん3大治療の手術、化学療法、放射線療法を選択するときに必ず同時に同じ土俵に上がるものと考えています。そして、栄養療法は、3大治療をしていないときでも必ず行われるべき治療と考えます。
 高用量のサプリメントや高濃度のビタミンなどの点滴療法になれば少しその枠を超えるでしょうが。栄養のことは統合医療だけでなくとも、標準的に行われる現代西洋医療、医食同源を考える東洋医療でも共通していることで一番基本となる治療となるはずです。いろいろなところで何度となく書いてきましたが、古代ギリシャの医師ヒポクラテスは、養生の源は〝食事〟にあると説いていますし、「汝の食事を薬とし、汝の薬は食事とせよ」という格言はあまりにも有名なものです。私の言う栄養療法は、オーソモレキュラーによる学問が加わり分子レベルでの栄養療法となります。サプリメントや栄養素の点滴療法までできない方でも、栄養療法はすべてのがん治療をする人で医療側から提供されなければならないことだと改めて感じました。食生活や普通の食材だけでも治療に加えることはいくらでもあると思うのですが、まだまだそれすら指導されていない現実が大半なのではないでしょうか。
 すべてのがんを治療しケアしていくうえで、栄養療法を考慮すべきであると私は考えます。栄養的アプローチはすべてのがん患者さんの良い体の状態を維持する根本的な基盤となります。それぞれのがん患者さんによって、必要な栄養素量は異なります。患者さんごとに至適な栄養素が得られればがんの長い治療の道のりを良い方向に導いてくれるはずです。
 たとえば、化学療法や放射線療法をするときに、同時にその患者さんの状態や行う治療に適した栄養のサポートをしてあげられれば、治療効果も上がり治療期間の短縮も期待できることでしょう。栄養状態が悪ければ抗がん剤の効きも悪く、副作用にも耐えられなくなるでしょう。
 放射線療法や化学療法ががん再発のリスクを減少させ、生存率を上昇させるのと同じくらい、質の良い栄養が重要であることを示す研究報告もあります。

工夫しながら少しずつ生活習慣を改めることで、がん細胞に対抗する

 ライフスタイルを正し、そのスタイルを改善させていくことは、がんの発症率を減少させがん予防の効果的な武器となります。ライフスタイルもいくつもの面がありますが、その食生活も大きな要素です。
 たとえば、植物性由来の食品はがんの発症を妨げるいろいろな非常に優れた分子で満たされ、がん予防の鍵となる役割を果たします。前がん状態の細胞をいい方向に導く確かなこの栄養療法は、毒性のない化学療法の1つと言えるでしょう。
 私の過去の治療歴に、このことを実証させる症例がありました。結婚し子供を望んでいましたが、毎回子宮がん検診を受けると前がん状態の診断を繰り返していました。婦人科医は3カ月毎の検診を勧めるばかりでした。がんに移行させないための治療は何も行われず、一方では正常細胞に自然に戻るかもしれない期待と、また一方ではそのままがんに進むかの不安です。確かに、前がん状態で一般的な3大がん治療をするわけにはいきません。ここで、統合医療の必要性が出てくるわけです。いくつか方法はありますが、私は栄養療法の選択肢を彼女に提供し治療しました。彼女の前がん状態は、栄養療法により細胞は正常化し、その後妊娠出産しています。
 さて、がんが進行しつつある細胞にとりましては、その細胞の置かれている環境というのはとても大切なものです。これらの細胞にいい状態を作る栄要素、その環境が前がん細胞に影響を与えるのです。環境に大きく関わるものは、やはり栄養素は外せません。いい方向にも悪い方向にもその栄養素が左右すると私は考えます。
 植物由来の食品は豊富な栄養素を含んでおり、ω3脂肪酸のような炎症を減少させるきわめて重要な働きをたくさん持っているものは、がん細胞の環境において欠くことのできない特徴的なものです。
 そして、がんのような病気を予防し健康を維持し、体のバランスを保ち体調を回復させるには、第一に、どのような食べ物を選択し口に入れていくかが大きな影響を与えることでしょう。
 さらに、肥満という環境もがん細胞に影響を与えます。先進国で現在見られる肥満の流行は、高カロリーな食品の摂り過ぎと直接関係します。そして、特に過食と運動不足も大きな関係にあります。脂肪細胞の量が増えていくと、人間の体の機能に深刻な結果をもたらします。特に、この状態はいくつかのがんの発症や進行の原因とされる炎症を誘発する環境を作り出すと言われます。
 私はこういったことからも、常々がんの発症にはいろいろな原因はありますが、糖尿病、高脂血症や高血圧などと同じように生活習慣病の要素も持ち合わせる意味もよくわかります。
 つい先日、乳がんを手術した方の栄養指導をしました。まったくがんに栄養が関係することを知らなかった方なので本当の基本をまずお話ししました。いろいろと難しいことはすぐには実行していただけないので、診察の後すぐにでも始められることから伝えました。先に記したように肥満の改善と精製された糖質の制限からです。彼女は甘いものが大好きで、それを止めるのは至難の業ですと話されていましたが……。ただ、糖質をすべて制限するわけではないので工夫次第なのです。未精製の糖質であれば適量に摂ることはいいと考えています。
 そして、糖質制限の次は、ホルモンがたくさん含まれる乳製品の禁止です。これは制限というより、この患者さんにとってはすべて避けたほうがいいことを話しました。なぜなら、ホルモン依存性の乳がんだからです。この2つのことからなら始められそうでした。
 栄養療法は、いい栄養素を加えていくことは大変大切なことです。しかし、その前に私たちの体に普段の生活習慣で口から入れている悪いものを排除することもまずやらなければなりません。

体内環境を整えるために食事を楽しみながら栄養を摂り入れる

 では、ここからは少し食材のお話をしましょう。私たちの口から入った食材が、私たちの体内環境を作り整えてくれることでしょう。

①海草類:海藻によって得られる健康効果をフル活用するには乾燥した海草類を使用するといいでしょう。スープにしたり、メインディッシュの食材としてたくさん食べてください。海の海藻エキスなどのサプリメントを摂ることはお勧めしません。なぜなら、それらには重金属が含まれていると考えられるからです。海藻サラダにして食べたり、他のシーフードなどの付け合わせとしてもっと食卓に取り入れて楽しんでください。

②キノコ類:キノコがもたらす真の健康効果は、魅力あるグルメの一皿と同じくらい、人間の食事においておもしろい存在であると言われます。
そして、がんの発症を防いだりがんの成長を遅らせたりする抗がん作用の分子が含まれています。特にアジア原産の特定のキノコの椎茸、えのき茸、舞茸やハラタケに豊富に含まれています。

③フラックシード(亜麻仁):フラックシードにより適量なω3を満たすには、ω6脂肪酸の摂取量を減らすことが大変重要なことです。最適なω6/ω3バランスを得るための良い方法は他の油(ひまわり油やコーン油などは避ける)よりフラックシードオイル(亜麻仁油)を摂ることです。加工して作られ成分を変更された食品を摂ることを最低限にしていくことも大切なことです。

④ハーブとスパイス:ハーブとスパイスは、がんの進行を遅くすることに働く、抗炎症作用のある分子を含んでいます。腫瘍が成長していく好条件な環境のところでその成長を防ぐようにハーブとスパイスは働きます。特にターメリックやショウガなどのスパイスが持つ抗炎症作用は、数種類のがん、特に大腸がんの予防で重要な役割を発揮するとのことです。

⑤プロバイオティクス:腸内細菌は、彼らの代謝活動によって私たち人間の身体の機能、免疫系のバランスを取ることに重要な役割を果たしています。ラクトバシラスやビフィズス菌のような乳酸菌は、免疫系を調節するばかりでなく有害なバクテリアの過度な増加を防止しています。プロバイオティクスが強化された食品を毎日摂ることは、腸内で乳酸菌の高いレベルが維持され、がんの発症や進行を防ぐためにとてもシンプルで効率の良い方法といえるでしょう。

 食事は、毎日欠かせないものです。ときどき、外食したりすることも1つの楽しみであり、普段と気分を変えていいでしょう。
 いろいろと栄養素の知識が入ってきますと、外食時レストランでのメニュー選びも変わってきます。そして、基本は自分のキッチンに戻って素敵な食事を楽しんでください。


(2014年1月30日発行 ライフライン21がんの先進医療vol.12より)

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