バンクーバーから日本のがん医療を見る
オーガニック食材の摂取と解毒ダイエット


半田えみ 医療法人社団 中成会 半田醫院

祖母から習う徹底した食生活

 私の祖母は現在96歳、今も寝たきりにはならず元気にしています。足腰は弱くはなっているのでピョンピョンと動き回ることはできませんが、基本的な日常生活は自分でこなせています。私の実家では4世代が同じ敷地で暮らしていますから、母が食事のおかずを祖母に届けていますが、それ以外ご飯を炊いてお味噌汁を作り祖母が気に入る食卓を未だ自分で楽しんでいます。
 祖母は、頭もクリアーで認知症という言葉はほど遠く、先日私に「まだまだお迎えが来るまでにやっておかなくてはいけないことがたくさんあるので、もう少し生きられるかな」と話していました。
 私のスーパーおばあちゃんは、川柳を作り(ときどき今でも新聞に掲載されます)、絵を描き、お習字も書きます。編み物に縫い物もこなします。編み物や縫い物においては、自分のものはもちろんですが、母、私達孫、そしてひ孫達の洋服まで作ってくれます。祖母は決してのんびりとただ優雅に暮らしてきたわけではありません。戦争も体験し、5人の子供を育てとにかく1日も休まず働いてきました。栄養も今の日本のように飽食な時代に生きてきたわけではありません。その粗食時代があったからこそ今も元気なのかもしれませんが、今回、何故私が祖母のことを最初に書いているかと言いますと、私が幼少の頃から見ていて祖母はひとつ徹底している食生活があるのです。
 祖母は出来合いの食品、加工したもの、他人の作ったものを一切食べないのです。
これは、祖母の人生において限りなく食品からの毒が体に入っていないということを意味しています。この徹底ぶりは見事なものですよ。昔から、私達家族が作ったものはさすがに食べますが、母や私が作ったものでも加工されたものが少しでも混ざったのがわかると食べてもらえませんでした。そのときは私達に悪いと思って受け取るのですが、こっそりと私達を傷つけないよう食べずに処理していました。
 今考えますと、笑い話のようですが時には子供なりにかわいい嘘をついて、「絶対買ったものは入っていないからね」と言い祖母に持って行くと一口食べて、祖母の舌は毒物感知器であるかのように見抜かれてしまいました。この、体に毒を入れない、体に悪いものは舌できちんと判断できる感覚が、今の時代にどれだけ大切なことか私は痛感しているのです。

オーガニック食材を摂りつつ体からの毒出しを

 先日の、バンクーバーでのがんの患者さんへの栄養講座でも体に毒を入れてはいけないということが力説されていました。がんのない患者さんでも体に毒を極力入れないようにして解毒を促す栄養療法が大切ではありますが、がんがすでに発症している方はさらに徹底する必要があります。
 食品だけではありません、自然なもの以外は皮膚や爪、髪、鼻、耳、目などを通して体に入って来るものも毒になるわけです。そして、体にとって必要のないたくさんのストレスも外から入り毒となるのです。がんを患っている方は再度身の回りを見直してみてください。
 さて、食や栄養の面からこれを見て行きますと、もちろんオーガニック食材を基本に摂ることが第一原則になります。農薬、ホルモン、抗生剤、白砂糖、カフェイン、合成着色料、化学調味料などを含まない食品を見つけることです。オーガニック食材は、眠っている体の中の免疫システムを呼び起こすとも言われます。最初に書きました私の祖母のように、徹底した毒を入れない食生活をすることは今の現代社会の日常生活ではかなり難しいかもしれません。ですから、基本はオーガニック食材をなるべく取り入れるよう努力しながら、同時に体からの毒出しをして行くことをやってみることがよいでしょう。毒出し、すなわち解毒(D-Tox)です。
 実際にがんの患者さんに行っていただきたいCancer carecentreでの解毒ダイエットの簡単なサマリーをご紹介したいと思います(を参照)。難しいことをするより、今日からでも実際に始めることが大切です。毎日の食事の材料を買いに行ったときからがスタートです。まずは、私も普段から心がけていることですが、生鮮食品はオーガニック食材を選ぶ、包装されている食品はすべて後ろの表示を見て不自然なものは入っていないか確認をしてから買う習慣をつけることです。表のブランド名ではありません、必ず裏ですよ!

賢い食材選びと調理方法

 前回に引き続き少し海外でのお話を続けます。
上記のようにがん患者さん向けにしっかりとした栄養療法のプログラムがあり、解毒のプログラムはその1例ですが具体的に指導してくれています。ただ、ここではオーガニック食材が簡単に日常の生活の中で手に入るという前提で栄養療法がなされています。これは、日本国内での状況とかなり違っている点なのです。栄養療法をうまく行うには、良質のサプリメントや点滴の前に安全な食材がなければ成り立たないと思うのです。
 ここで、もう1つおもしろいデータを患者さんに提供していました。代表的な果物と野菜がオーガニックであるかそうでないかで汚染の状況が変わってくるというものです。成長の段階での汚染がいかに影響するかということですから、どうやって育てるかがとても重要ということです。

◉最も汚染されている果物と野菜(オーガニックのものと比較して)
果物:リンゴ、洋梨、桃、ネクタリン、いちご、サクランボ、ラズベリー、ぶどう
野菜:ピーマン(パプリカ)、セロリ、グリーンピース、ジャガイモ、ホウレンソウ、レタス、キュウリ、カボチャ、錦糸カボチャ
◉汚染の少ない果物と野菜
果物:バナナ、オレンジ、みかん、パイナップル、グレープフルーツ、メロン、スイカ、プラム、キーウィ、ブルーベリー、マンゴー、パパイア
野菜:ブロッコリー、カリフラワー、マッシュルーム、アスパラガス、トマト、タマネギ、なす、さやえんどう、ラディシュ、アボカド

 この報告は海外のデータですから日本の状況とは少し違うかもしれません。しかし、輸入の食材もかなり多い時代に入っていますので、食材選びの時もせめて汚染の多いものだけでもオーガニック食材を買うということでもよいかもしれません。
 それ以外には、食材はきちんと洗う(還元水で洗い浸すのもお勧め)、皮を剝くなどして食べることです。しかし、本来は皮ごと食べて欲しい食材がほとんどですので、がんの患者さんはそうでない方より体に毒を入れてはいけないので、オーガニック食品が手に入らなければたくさん汚染されている果物や野菜はすべて食べられないことになってしまいますね。それはまた問題となることです。
 こういった問題の中、現在、果物や野菜に含まれるたくさんの制がん性のある成分が発見されています。これら、制がん性の成分を含む食品が、多くの発がん物質を除去することによって体を解毒することができるという事実がわかってきており、このことは大変重要なことです。オーガニックでない果物や野菜が農薬などの発がん性物質によって汚染されているにしても、制がん性の成分の分子は、発がん性の物質が体に悪さするよりいい影響を体に与えてくれるでしょう。ですから、朝食にはたっぷりの果物と野菜、昼食、夕食のたんぱく質と一緒に必ずたくさんの野菜を摂ることを心がけてください。

日本には、オーガニック食材を入手したくても〝ない〟という不思議

 少し、解毒のお話とは変わりますが、ここで、ひとつ注意しておきたいことがあります。
 最近流行のビーガン(Vegan)、ローフード(raw food)、ベジタリアン(Vegetarian)などがありますが、それぞれ定義は違いますが、果物と野菜中心であったり、野菜や果物を生ですべて食べましょうというものです。健康な方が健康維持、軽い病気治療、生活習慣病などの改善目的などではまだいいのですが、がん患者さんにとっては決してどなたにでもお勧めできるものではありません。本来がん患者さんは体を冷やさず体温が高いくらいがよいのです。しかし、果物と野菜だけ、すべて生でとなりますと体を冷やし過ぎてしまうことにもつながりかねません。私も、常々いろいろな流行だけでがん患者さんがそれを実行してしまうことに不安を感じています。
 最後に、日々疑問に思うのですが、何故日本ではオーガニック食材がここまで手に入らないのでしょうか。もちろん0%ではありませんが、日常にないのです。私が、患者さんにもオーガニック食材をと話をしても「どこで買えるのですか」という返答しかない遠い状態です。買いたくても売っていない特別なもの、それがオーガニック食材というのが私の周辺でも現状です。どんなに栄養療法を充実させたくとも、栄養療法の一番根底に必要な素材がないのです。毒を入れたくなくても毒されたものがほとんどなのです。
 医院の裏庭や実家で今年の夏も無農薬の食材を少しは作りました。しかし、個人では限界がありますので、日本も早く国全体でオーガニック意識を高めてほしいものです。

(2012年10月20日発行 ライフライン21がんの先進医療vol.7より)

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