シリーズ 治療効果をプラスする「最新のがん治療」

~さまざまながん種に対する免疫細胞療法の効果~
第8回 食道がん


加藤洋一
新横浜かとうクリニック院長

 私が院長を務める新横浜かとうクリニックでは、通院抗がん剤治療や免疫細胞療法、温熱治療、がん遺伝子検査などを駆使し、がん患者さんへのオーダーメイドがん治療を行っている。その治療のコンセプトは「治療効果をプラスする治療法がある」。つまり、標準治療に他の治療をプラスし、少なくとも生存率を70~80%まで引き上げることを目指しているのだ。その切り札の1つである免疫細胞療法として、樹状細胞がんワクチン(樹状細胞ワクチン療法)、活性化リンパ球療法、WT1 CTL療法などを実践している。
 本連載では、これらの免疫細胞療法がそれぞれのがん種にどのような効果をもたらしたのか、というがん種別の症例を治療方針と共に紹介していく。第8回は、難治性がんの1つである食道がんを取り上げた。

最新の免疫細胞療法を最適のタイミングで

 当クリニックで行っている樹状細胞がんワクチンは、がん細胞の抗原情報をがんペプチド(がんの特異的抗原)として認識する樹状細胞を用いた治療法である。樹状細胞は、そのがん情報からがん免疫を起動するかを判断するといった、がん免疫システムにおいて重要な働きを持っている。この樹状細胞がんワクチンは、患者さん自身が持っている免疫力をアップさせるので、他の治療法と併用しやすい。とりわけ、活性化リンパ球療法との相性は抜群である。
 がんペプチドワクチンは2000年代になり、がん遺伝子から開発された。ペプチドとは「小さなたんぱく質」の意味で、数個から数十個のアミノ酸で構成されている。がんペプチドワクチンを用いた治療法が確立され、従来の非特異的免疫細胞治療から、がん免疫のみを上げる特異的免疫療法が普及してきたと言える。
 現在、当クリニックでは、WT1、MUC1、HER2の3種のワクチンを樹状細胞がんワクチンに用いている。腺がんには、その3つのうちのどれかを、扁平上皮がん・小細胞がん・大細胞がんにはWT1のみを使用している。ちなみに、樹状細胞がんワクチンの投与は、毎回、注入する部位を変えて皮内に行う。副作用としては、注入した箇所に発赤が起こる程度で、体にやさしい治療だと言える。
 また、活性化リンパ球療法は、患者さんから採取したリンパ球を増強させて約1000倍に増やし体内に戻す治療法である。主として患者さんのがん免疫力を上げることでがんを壊すといった、がんの免疫細胞療法では日本で最も歴史を誇る治療法として知られている。
 そして、WT1 CTL療法は、WT1抗原(小さなタンパク質のペプチドで、多くのがん細胞が持っている抗原)を認識した活性化リンパ球(WT1CTL:WT1特異的Tリンパ球)を用いた治療法である。がんを認識したリンパ球は、通常の活性化リンパ球に比べてがんに結合しやすいので、より高い効果が期待できる。ただし、その患者さんのがんがWT1抗原を持っているのか否か、HLA(ヒト白血球抗原)ががんワクチンに結合する型か否かの検査が事前に必要となる。
 これらの治療以外に、当クリニックでは、がん性疼痛緩和のための温熱療法や副作用の少ない抗がん剤治療、がん遺伝子検査などを用いて、標準治療よりも効果が期待できる治療法を選択肢として提示している。その際、初診時に現在の病状や治療歴などを聞くようにしている。そうすることで、それまでの病気に対する治療法のタイミングの良し悪しを判断し、その状況下における最高のタイミングで治療をスタートさせることが可能になるからである。
 がんのなかでも、とくに進行がんや再発・転移がんの場合は、治療開始のタイミングが、後々、大きな差となって表れる。「治療を加えるタイミング」を掴むことができれば、それが好結果に結び付く可能性が高いのだ。

難治度が高い食道がん

 当クリニックが開業してから5年が経ったが、この間、400人以上の患者さんに、免疫細胞療法を行った。がん種別で見ると多い順に、大腸がん、膵がん、胃がん、肺がん、乳がん、卵巣がん、食道がん、子宮がん、頭頸部がん、前立腺がん、肝がん……と続く。その大部分がステージⅣか再発・転移のがんを抱えた方々である。
 そのなかで、今回、取り上げる食道がんは、40歳代後半から高齢になるにつれて増加する。その罹患率は、男性が女性の約5倍と、男性では増加傾向が見られる。
 食道がんのリスクファクターとしては飲酒と喫煙が挙げられ、なかでも扁平上皮がんはそれらとの関連性が強いと言われている。そして、熱い飲食物が罹患のリスクを上げることを示唆する研究結果が多数発表されてもいる。
 食道がんは初期症状の段階であれば目立った兆候がほとんどない。この段階で発見できれば早期がんであることが多いため、根治できる可能性が高い。だが、病状が進行していくと、食べ物を飲み込むときに喉につっかえを覚えたり、しみたりするようになる。その他、咳や声のかすれといった症状が出る場合もある。
 検査の方法としては、レントゲンや内視鏡、超音波検査、CT、MRI、PET、腫瘍マーカーなどがある。これらの検査によって食道がんであることがわかったら、ステージが判定される。
 食道がんにおいて手術が可能な場合は、手術療法をはじめ、術後補助化学療法、術前化学療法、術前化学放射線療法、根治的化学放射線療法が行われる。食道がんにおける化学放射線療法は、放射線単独療法と比べて有意に生存率を向上させることが比較試験で証明されており、非外科的治療を行う場合の標準的治療として位置付けられている。その一方で、手術や化学放射線療法が適応とならない遠隔転移例および術後再発例に対しては、全身化学療法や分子標的薬が用いられている。
 いずれにしても、食道がんは難治性がんの1つである。その5年生存率は、0期(食道粘膜にがんが留まる)では70~80%、Ⅰ期(がんが食道粘膜に留まるもののリンパ節に広がっている、もしくは粘膜下層まで広がっている)では50~60%、Ⅱ期(食道の外に少しがんが広がっている、もしくはがん近くのリンパ節にのみ広がっている)では30~50%、Ⅲ期(食道の外に明らかにがんが広がっている、もしくは食道壁や少し遠くのリンパ節に広がっている)では10~30%、Ⅳ期(周辺臓器、遠くのリンパ節、胸膜や腹膜にがんが広がっている)では5~10%とされている。
 また、食道がんの手術は難しいうえ、手術が不適応な場合は1年ほどの生存率と言われることもある。さらに、食道がんは進行が速く、転移・再発をしやすいタイプのがんなのである。

進行性食道がんに、樹状細胞がんワクチンが奏効

 当クリニックを受診するがん患者さんは、ステージが進んでいたり再発したりしているケースが大部分である。そのなかでも、難治性の食道がんの患者さんに対して当クリニックの免疫細胞療法が奏効したケースのうち、今回は2つの症例をご紹介する。
 1つ目の症例の患者・Aさん(80歳代・男性)は、2011年に神奈川県内の総合病院で腎細胞がんと診断された。しかし、慢性呼吸不全を抱えており、治療適応がないと判断されていた。そして、2012年4月の検診にて、壁内転移をともなった食道がんが見つかった。
 Aさんは他の医療機関にセカンドオピニオンを求めた。その結果、高齢であり、かつ呼吸器疾患もあるため、抗がん剤治療と放射線治療のリスクが高いと告げられ、緩和医療を勧められた。しかし、積極的な治療を受けるために同年6月に当クリニックを受診されたのであった。
 呼吸器疾患があり高齢であることに鑑み、当クリニックではAさんに対し、体にやさしい免疫細胞療法を行うことにした。まず、同年7月からWT1ペプチドワクチンを用いた樹状細胞がんワクチンを皮内接種し、肺とリンパ節への転移の予防を先行した。そして、8月より内視鏡下に樹状細胞がんワクチンの接種を開始したのである。
 治療前、Aさんの食道はピンホール(針で開けた程度のごく小さな穴)ほどの細さまで狭窄し、水分しか通らない状態であった(写真1参照)。だが、樹状細胞がんワクチン開始直後より流動食やお菓子などが食べられるようになるなど、12回のワクチン接種にて狭窄が改善された(写真2参照)。


写真1 治療前の狭窄状態にあったAさんの食道


写真2 5回目の樹状細胞がんワクチン接種後


写真3 7回目の樹状細胞がんワクチン接種後


写真4 12回目の樹状細胞がんワクチン接種後に狭窄が改善された

 また、当初、増加していた腫瘍マーカーであるSCC(扁平上皮がん関連抗原)は、樹状細胞がんワクチンの接種を始めて3カ月目より低下に転じ、現在も安定してきている(図1参照)。今後は、まだ根治していないため、定期的に内視鏡検査を予定している。


図1 予想されたSCCの上昇はワクチン開始3カ月後より低下し始めた

 2つ目の症例の患者・Bさん(70歳代・男性)は、2008年12月に吐血し、神奈川県内の医療機関において内視鏡検査を受けたところ、食道がんが見つかった。2009年1月に他の病院に入院したものの肝機能が悪く、手術が不可能な状態であった。そこで、リニアック(放射線治療装置)による照射とシスプラチンによる抗がん剤治療を受けた。
 同年5月よりDC療法(ドセタキセル+シスプラチン)に切り替え、抗がん剤治療を継続していた。そして、7月末に受けた生検(生体組織診断)では、がん細胞が「陰性」という結果が出た。9月には内視鏡手術とレーザー焼灼を受け、DC療法も行っていた。
 しかし、2010年9月に局所再発し、食道が狭窄した状態に陥ってしまった(写真5参照)。しばらくして抗がん剤治療を中止し、当クリニックを受診された。抗がん剤治療の効果がなく、再発部に放射線治療をしていることから、当クリニックでは免疫療法を行うことになった。
 BさんのWT1ペプチドワクチンの適合性を確認し、2012年1月より樹状細胞がんワクチンを内視鏡下で局所接種を始めた。以後、治療を重ねるごとに腫瘍部の飲食物の通過具合が改善し、治療開始5カ月後には内腔が保たれ、十分な食事量が摂れるようになった(写真6参照)。また、Aさん同様、腫瘍マーカーも安定している(図2参照)。


写真5 治療前の狭窄状態にあったBさんの食道


写真6 樹状細胞がんワクチン開始後5カ月で内腔は十分保たれるようになった


図2 腫瘍マーカーSCCも安定している

期待度が高いWT1樹状細胞がんワクチン

 本稿で頻回に登場したWT1ペプチドワクチンには2種類あり、そのどちらかが日本人の約8割に使えるようになっている。日本人には稀なタイプも入れると、今後、20種類のHLA–Aに対応したWT1ペプチドワクチンを開発する必要がある。
 2000年から2002年にかけ、WT1ペプチドワクチンに関する第1相臨床試験が大阪大学病院において行われた。対象は、白血病・乳がん・骨髄異形成症候群の標準治療が完了した26人の患者さんで、1週間おきにWT1ペプチドワクチンを3回、皮内注射した。
 この臨床試験は一時中断したものの、3回の投与ができた20人の患者さんのうち、腫瘍の縮小や腫瘍マーカーの数値の改善といった臨床的効果が見られたケースは14人いた。加えて、WT1ペプチドワクチンの安全性も確認されている。
 2004年2月からは、多くのがん種の患者さんを対象に、WT1ペプチドワクチンに関する臨床試験が開始されている。これらの臨床試験はWT1ペプチドワクチンと一緒に免疫刺激剤を投与する治療であるので、免疫機能が正常である患者さんでなければ効果が期待できない場合が少なくない。とりわけ再発がんの患者さんや抗がん剤治療後の患者さんは免疫機能が低下しているか、破壊されているので、WT1ペプチドワクチンと免疫刺激剤だけでは効果が現れない場合が多い。
 そこで、私はWT1ペプチドワクチンを使ったもう1つの治療を利用することで、この問題をクリアした。それは本稿でも記した、WT1ペプチドワクチンに樹状細胞と接触させることでがん情報を記憶させ、直に作用させて行う治療法である。それがWT1樹状細胞がんワクチンで、現在、もっとも期待できる免疫細胞療法である。
 このような免疫細胞療法を駆使し、私はがんの生存率を引き上げることを目指している。

(2013年7月30日発行 ライフライン21がんの先進医療vol.10より)

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