シリーズ 治療効果をプラスする「最新のがん治療」

~さまざまながん種に対する免疫細胞療法の効果~
第9回 肝臓がん


加藤洋一
新横浜かとうクリニック院長

 私が院長を務める新横浜かとうクリニックでは、通院抗がん剤治療や免疫細胞療法、温熱治療、がん遺伝子検査などを駆使し、がん患者さんへの治療を行っている。その治療のコンセプトは「治療効果をプラスする治療法がある」。つまり、標準治療に他の治療をプラスし、少なくとも生存率を70~80%まで引き上げることを目指しているのだ。その切り札の1つである免疫細胞療法として、樹状細胞がんワクチン(樹状細胞ワクチン療法)、活性化リンパ球療法、WT1 CTL療法などを実践している。
 本連載では、これらの免疫細胞療法がそれぞれのがん種にどのような効果をもたらしたのか、というがん種別の症例を治療方針と共に紹介していく。第9回は、再発率が高いとされる肝臓がんを取り上げた。

肝臓の構造・肝がんの特徴

 当クリニックが開業してから5年以上の治療を実践している。この間、400人以上(大部分がステージⅣか再発・転移のがんを抱えていた)の患者さんに免疫細胞療法を行った。がん種別で見ると多い順に、大腸がん、膵がん、胃がん、肺がん、乳がん、卵巣がん、食道がん、子宮がん、頭頸部がん、前立腺がん、肝がん……と続く。
 したがって、今回、取り上げた肝がんは、当クリニックでは決して症例が多いがん種ではない。そのなかで、免疫細胞療法が進行性の肝がんに奏功した症例を紹介したい。
 肝臓は、直径0・1㎝ほどの小葉という構造の集まりからできている。その小葉の1つには、約50万個の肝細胞がある。小葉の中心には中心静脈があり、肝細胞はその中心静脈を中心に放射状に並んでいる。この間に類洞と呼ばれる毛細血管がある。また、肝小葉の周辺には門脈域と呼ばれる構造が認められ、門脈枝、細胆管、肝動脈枝が含まれている。
 肝臓の転移経路には「リンパ行性転移」と「血行性転移」がある。リンパ行性転移には肝門部リンパ節転移からの逆行性リンパ行性転移と思われる症例が見られる。そのなかには稀に肝臓のがん性リンパ管症も報告されている。
 血行性転移には、門脈支配域に生じたがんの一般的な経路である「門脈行性」のものと、肺がん・肺転移巣からの経路となる「肝動脈性」のものがある。門脈行性の場合、その定着部位に塊をなすがんであれば門脈の末梢枝が多く、細胞単位のものであれば類洞血管が一般的とされている。肝臓の手術や治療を行う際には門脈による区分が重要で、その機能的区分は門脈血流によって肝臓を区分したものである。
 それと、胆嚢と下大静脈を結ぶ主分割面(カントリー線)によって「左葉」と「右葉」に分割することができる。さらに、左葉は肝鎌状間膜により「内側区」と「外側区」に、右葉は右肝静脈により「前区」と「後区」に分けることができる。いずれにしても、この分割方法では、肝臓を尾状葉(S1)・左葉外側後区域(S2)・左葉外側前区域(S3)・左葉内側区域(S4)・右葉前下区域(S5)・右葉後下区域(S6)・右葉後上区域(S7)・右葉前上区域(S8)の8つの区域に分類できる。
 また、肝がんの再発率は高く、その確率は、術後3年以内が約50%、5年以内が約80%というデータもある。そして、もっとも多いのは、術後1~2年と言われている。このように再発率が高い理由としては、原発性肝がんは、慢性肝炎や肝硬変という状態であれば、再発の危険と隣り合わせだからだ。
 肝がんの再発で圧倒的に多い部位は、同じく肝臓である。この残肝再発は、前のがんが取りきれなかったケースと、肝炎や肝硬変によってがんが新しくできたケースとがある。その他、再発の転移で多いのは肺や骨、脳、リンパ節、胃などである。
 いずれにしても、肝がんは再発率が高いという点に鑑み、膵がんや胆道がんなどと共に難治性がんとされている。

がんに特化して攻撃する「体にやさしい免疫細胞療法」

 当クリニックで行っている樹状細胞がんワクチンは、がん細胞の抗原情報をがんペプチド(がんの特異的抗原)として認識する樹状細胞を用いた治療法である。樹状細胞は、そのがん情報からがん免疫を起動するのかを判断するといった、がん免疫システムにおいて重要な働きを担っている。
 がんペプチドワクチンは2000年代になり、がん遺伝子から開発された。ペプチドとは「小さなたんぱく質」の意味で、数個から数十個のアミノ酸で構成されている。がんペプチドワクチンを用いた治療法が確立され、従来の非特異的免疫細胞治療から、がん免疫のみを上げる特異的免疫療法が普及してきたと言える。
 その樹状細胞がんワクチンには、WT–1、MUC1、HER2の3種類がある。そして、今年(2013)8月より新しくAFPペプチドワクチン(αフェトプロテイン由来のペプチドワクチン)の使用を開始している。それらの使用法の用途はがん細胞の形態によって異なり、腺がんには3つのうちのどれかを、扁平上皮がん・小細胞がん・大細胞がんにはWT–1のみを使用している。
 当クリニックにおいて樹状細胞がんワクチンを受ける流れは、まず診察してHLA(ヒト白血球抗原)の検査を行うことからスタートする。この検査結果とがん種などを照合し、がんペプチドワクチンの種類を決定する。基本的にワクチン接種は、2週間に1回ずつ計5回(3カ月間)を1コースとしている。
 そのコース中に、患者さんの免疫反応がしっかりとアップしているのかを調べる。そして、1コースが終了して2カ月以内に、さらにその3カ月後にCT検査を行い、治療効果の評価を行う。ちなみに、治療終了時点でそれほど効果が認められなくても、治療終了から3カ月後に著明な効果が認められるケースも多々ある。
 樹状細胞がんワクチンは、患者さん自身が持っている免疫力をアップさせるので、他の治療法と併用しやすい。とりわけ活性化リンパ球療法との相性は抜群である。そして、樹状細胞がんワクチンの効果を高めるポイントは、その培養のために患者さんの体内から血液を採取する時期にある。抗がん剤は白血球を減少・損傷させるので、抗がん剤治療を受けている患者さんであれば、樹状細胞培養のための採血は次回の抗がん剤投与の直前、つまり白血球が最も多くて状態のいいときに行うのがベストなのだ。
 また、活性化リンパ球療法は、患者さんから採取したリンパ球を増強し、約1000倍に増やし体内に戻す治療法である。主として患者さんのがん免疫力を上げることでがんを壊すといった、がんの免疫細胞療法では日本で最も歴史を誇っている。
 樹状細胞がんワクチンや活性化リンパ球療法と共に、当クリニックの免疫細胞療法の柱となっているWT1 CTL療法は、WT1抗原(小さなタンパク質のペプチドで、多くのがん細胞が持っている抗原)を認識した活性化リンパ球(WT1CTL:WT1特異的Tリンパ球)を用いた治療法である。がんを認識したリンパ球は、通常の活性化リンパ球に比べてがんに結合しやすいので、より高い効果が期待できる。ただし、その患者さんのがんがWT1抗原を持っているのか否か、HLA(ヒト白血球抗原)ががんワクチンに結合する型か否かの検査が事前に必要となる。
 さらに、当クリニックでは、WT1ペプチドワクチンに樹状細胞を接触させることでがん情報を記憶させる治療も行うようになった。直にWT1ペプチドワクチンに作用を持たせたWT1樹状細胞がんワクチンは、現在、私が大きな期待を寄せている免疫細胞療法の1つである。
もちろん、これらの治療以外に、当クリニックでは、がん性疼痛緩和のための温熱療法や副作用の少ない抗がん剤治療、がん遺伝子検査などを用いて、標準治療よりも効果が期待できる治療法を選択肢として提示している。その際、初診時に現在の病状や治療歴などを聞くようにしている。そうすることで、それまでの病気に対する治療法のタイミングの良し悪しを判断し、その状況下における最高のタイミングで治療をスタートさせることが可能になる。
 がんのなかでも、とくに進行がんや再発・転移がんの場合は、治療開始のタイミングが、後々、大きな差となって表れる。「治療を加えるタイミング」を掴むことができれば、それが好結果に結び付く可能性が高いのだ。
 免疫細胞療法の特長は、攻撃対象ががん細胞だけで、それ以外の正常細胞は傷つけないこと。副作用と言えるのは、微熱や注射部位の発赤程度であることだ。要するに、体に備わったがん撃退のシステムを発現させ、副作用を伴わずにがん細胞を破壊する画期的な治療法なのである。

進行性肝がんに樹状細胞がんワクチン・活性化リンパ球療法が奏功

 当クリニックを受診するがん患者さんは、ステージが進んでいたり再発したりしているケースが大部分である。そのなかでも、難治性とされる肝がんの患者さんに対し、当クリニックの免疫細胞療法が奏功したケースのうち、今回は2つの症例をご紹介する。
 1つ目の症例の患者・Aさん(40歳代・男性)は、2012年8月、下痢が続いたため地元の病院を受診した。すると、超音波検査によって肝臓に15㎝の腫瘍が見つかり、TAE(transarterial e- mbolizationa:経動脈的塞栓術)にて、抗がん剤と血管塞栓物質を2回にわたり行った。その結果、腫瘍は6㎝まで縮小した。
 しかし、その退縮は一時的なもので、TAI(transarterial inf- usion:経動脈的注入)にて、抗がん剤のみを2回にわたり投与した。その直後の2013年1月にPET–CT検査を行うと、肝臓の病巣は15㎝×6㎝まで増大し、結果的にTAEは無効と判断された(写真1参照)。そして、同年2月よりネクサバールを用いた治療を開始したものの、4月に腫瘍マーカーであるAFP(「αフェトプロテイン」と呼ばれる血清たんぱくの略称)の上昇と肝機能障害によってその治療を中止しなくてはならなくなった。そこで、Aさんは他の治療法を求め、同年6月に当クリニックを受診した。


写真1 

 当クリニックではAさんに対し、WT1ペプチドワクチンとMUC–1ペプチドワクチンを混ぜ合わせた樹状細胞を8月まで接種した。加えて、Aさんのリンパ球数が少なかったため、その途中から活性化リンパ球療法を併用した。
同月下旬、CTの検査を行うと、腫瘍は3つに分かれて縮小していた。その最大のものでも3㎝×2㎝にまで小さくなっていた(写真2参照)。さらに、リンパ球数とがん免疫力を表すGRN(リンパ球活動指標)は4近くまで上昇し、500個/μℓ(マイクロリットル)だったリンパ球数も1000個以上に増加した(図1参照)。


写真2

図1

図2

 現在、Aさんは、営んでいる会社業務をこなしながら、他の医療機関でリンパ球治療を継続している。
2つ目の症例の患者・Bさん(50歳代・男性)は、2011年11月に、地域の病院で多発肝細胞がんの診断を受けた。その後、10回のTAEによる治療を受けたものの、肝臓の3分の2ががんとなった(写真3参照)。さらに、2012年10月に多発肺転移が見つかり、ネクサバールを用いた治療をスタートさせた(写真4参照)。しかし、同年12月には強い副作用が現れ、その治療の中断を余儀なくされた。


写真3

写真4

 そして、2013年1月、肝臓のS6部分の腫瘍が肝膿瘍を発症した。肝膿瘍は、肝臓の局所に膿が貯留する病気で、細菌の感染による化膿性肝膿瘍と、赤痢・アメーバ原虫の感染による赤痢・アメーバ性肝膿瘍とがある。Bさんが罹患したのは化膿性肝膿瘍で、発熱・右上腹部痛・肝腫大(肝臓の腫れ)が3大症状とされている。また、夜間の発汗や倦怠感、食欲不振、体重減少、貧血が起こることもある。
 そのような状況のなか、8月に当クリニックを知り受診した。そして、9月よりWT1ペプチドワクチンとAFPペプチドワクチンを混ぜ合わせた樹状細胞を接種した。また、リンパ球数が1000個/μℓと少ないため、活性化リンパ球療法を併用した。
 その結果、1回目の接種後、AFPは843から454まで低下し、がんの増殖速度を示すTPAも64・6から50・6まで低下(図3参照)。さらに、悩まされていた全身の倦怠感も改善し、現在、お1人でも安心して飛行機による通院をして、治療を継続している。


図3

図4

 当クリニックは「やはり最先端科学によるがん治療を受けたい!」をテーマに、新しく、かつ安全な治療を提供している。というのは、現在、代表的ながん治療には、手術・抗がん剤・放射線・免疫療法があり、それぞれの治療の特長を活かした治療を重視しなければならないと考えているからだ。
 その点に鑑みれば、私は、20年以上に及ぶ医師人生のなかで構築した〝がん4大治療〟における人脈を駆使した「他の医療機関との連携」が可能である。したがって、当クリニックでは、今回、ご紹介した免疫細胞療法に加え、併用するには最適な治療を提供できる点も強みだと思う。すなわち、こうした医療こそが、私が目指すところの「治療効果をプラスする『最新のがん治療』」なのである。

(2013年10月30日発行 ライフライン21がんの先進医療vol.11より)

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