シリーズ 先端医療 ―樹状細胞療法― ⑬

難治がん・転移がんの集中治療・在宅治療
強い〝樹状〟はキラー細胞の原動力 ~解明されつつあるサクセスストーリー〜


星野泰三
東京・大阪・京都統合医療ビレッジグループ 理事長・プルミエールクリニック院長

 当院を受診される患者さんの8割以上が進行性・難治性のがんを抱え、他の病院において余命を宣告されたり、緩和ケアを勧められたりした方々です。それでも、免疫細胞治療が奏功し、がんを克服した症例は、本稿の表にまとめた以外にも多々あります。
 そのなかには、私たちが患者さんのご自宅まで行って治療を行ったケースも少なくありません。こうした往診による治療も、遠隔地の患者さんには有意義なものだと自負しております。
 いずれにしても、免疫細胞治療が奏功した大きな要因は、樹状細胞を用いたことです。その樹状細胞を中心とした「免疫の〝サクセスストーリー〟」が解明されつつあり、がん免疫細胞治療の時代がいよいよ到来した感があります。
 今回は、樹状細胞が原動力となって働くキラー細胞にもふれながら、その〝サクセスストーリー〟などをご紹介します。

キラー細胞の魅力

 キラー細胞は、体の中で標的に結合し、攻撃する働きを持つリンパ球の仲間です。代表的なものとしては、がん細胞に特異的に結合し、その排除にあたるキラーT細胞(CTL)と、基礎的ながん排除能力としてのナチュラル・キラー細胞(NK細胞)が挙げられます。
 NK細胞は、その名称からわかるように、生まれつき(natural)の細胞傷害性細胞(killer cell)ですが、現在、ペプチドワクチンの研究が進み、CTLのほうが、がん治療での活躍が大きく期待されるようになっています。
 CTLの特徴は、免疫細胞が正常細胞とがん細胞を見分けるための目印であるがん抗原(がん細胞の表面に出ているタンパクの断片=ペプチド)へ一直線に向かって行き、がんをアポトーシスさせることです。その意味では、速やかに、力強く、標的であるがんへと辿り着くわけです。
 ただ、CTLが速やかにがん抗原に誘導されるには、「ClassⅠ」という抗原提示がしっかりなされる工夫が必要です。
 また、抗がん剤治療を受けた患者さんの多くは、吐気や嘔吐、脱毛、白血球・赤血球・血小板の減少などの副作用に悩まされます。それは、抗がん剤ががん細胞を死滅させるのと同時に、正常な細胞にも作用するためです。要は、抗がん剤治療によって、がんを叩いたとしても、患者さんの体調は悪くなることが多いのです。
 その点、キラー細胞を用いた免疫細胞治療を受けた患者さんは、熱が出たり、がんが壊れたときの老廃物で倦怠感を感じるケースがあるものの、どれも一時的なもので、重篤な副反応が現れることはなく、むしろ体調が改善されます。従来から、免疫細胞治療の特徴として、こうした副作用がほとんどなく、速やかに、かつ力強くがんを叩いてくれることがクローズアップされてきたのも頷けます。
 いずれにしても、免疫系の〝花形〟として脚光を浴びているのは、それらキラー細胞なのです。(図1


図1 免疫系の花形であるキラーT細胞

強い樹状細胞がキーポイント

 本連載に通底したテーマは「先端医療としての樹状細胞治療」です。その〝主役〟は、もちろん樹状細胞です。
 従来は、キラー細胞で直接、がんを叩くことが免疫力の研究の最先端でした。その後、ヘルパー細胞の役割が注目され、さらに樹状細胞が、がんを叩く中心的な役割を果たしていることがわかってきたのです。つまり、樹状細胞を強化することが、がんを治す、あるいはかなり長期間延命することに繋がるというわけです。
 樹状細胞は、免疫の司令塔として重要な役割を担っています。標的となるがん細胞を取り込み、そのがん細胞が持つ抗原を自分の細胞の表面に提示します。このすぐれた抗原提示能力で、CTLなどのリンパ球に抗原情報を伝え、強力に誘導するのです。その働きによって、パーフォリンやグランザイムという抗がん酵素が放出されやすくなる、インターフェロンが産出されやすくなる、といった免疫的作用が期待できるようになるのです。
 また、昨今、話題になっているがんペプチドワクチンですが、一昔前は、手術当日に切除した新鮮な自己がん組織を処理し、その特徴を多分に含んだ自己がん由来の情報源を埋め込む「自己がん由来のがん抗原」が一般的でした。しかし、昨今は、シャープな情報としてのペプチドワクチンを埋め込む「人工合成のがん抗原」として4~6種類のがんワクチンを樹状細胞の中に埋め込むマルチタイプのペプチドワクチンを用いた方法が主流になっています。そのことで樹状細胞ががんの持つヘテロ性(多様性)にも対応できるようになり、ペプチドワクチンが持ち合わせている強い抗原認識力が最大限に発揮される免疫細胞治療が可能になったのです。
 いずれにしても、がん患者さんの免疫状態、つまり樹状細胞やCTL、NK細胞などの働きは弱くなっています。そこに患者さんの血液から樹状細胞の元になる細胞(単球)を採取し、体外で培養した後、再び樹状細胞を投与し、CTLやNK細胞などを活性化させるのが樹状細胞治療です。この治療法のキーポイントになり得るのが、がんペプチドです。
 そのがんペプチドは、がん抗原の分解産物です。つまり、死滅した生のがん組織を埋め込んでも、規則正しく分解されなければ、きちんとした情報伝達の役割を果たせないのです。専門家の間で「自己がん由来のがん抗原」に対する評価を疑問視する声が増えているのは、がんの分解産物が規則正しく分解されないと捉えられているからです。
 したがって、規則正しく分解されるがんペプチドにするには「人工合成のがん抗原」を用いるのが良策です。そのような優れたがんペプチドを樹状細胞に搭載することが、がんペプチドワクチンの大きなポイントと言えるのです。
たとえるなら、規則正しく分解されていない「自己がん由来のがん抗原」からなるペプチドは天然の真珠、規則正しく分解されている「人工合成のがん抗原」からなるペプチドは養殖した真珠です。市場に出ている綺麗な真珠はすべて養殖の真珠なのです。
 また、先述の、速やかにCTLをがん抗原に誘導させる「ClassⅠ」という抗原提示は、樹状細胞が持っているClassⅠ系列でつくり出されます。ただし、ClassⅠによってCTLが簡単にがんへと誘導されるわけではありません。
 というのは、樹状細胞が持っている「ClassⅡ系列」というシステムによって、ヘルパーT細胞(Th1)が、CTLをがんのほうへと誘導しているのです。ですから、樹状細胞の〝縁の下の力持ち〟としての役割を果たすこの細胞に「ヘルパー」という言葉が付与されているのも頷けます。さらに、ヘルパーT細胞には、インターフェロン系によって、がんが隠しているClassⅠ抗原を表に勢ぞろいさせる役目も持っています。ヘルパーT細胞には、大きな2つの役割があるというわけです(図2)。
 このように、がんに対する免疫系の仕組みは、日進月歩で解明されています。言うなれば、「免疫の〝サクセスストーリー〟」が徐々に明らかになってきているのです。


図2 解明されてきた「免疫のサクセスストーリー」

がんの壁を除くことも重要

 免疫システムはがん抗原の認識を介してがん細胞を攻撃し、排除しようとします。それに対して、がん細胞は多様な免疫抑制機構を獲得することで、その攻撃からの逃避ができるのです。このような現象は、進行した状況のがんの病態で多く見られます。
 その最たる例が、分子レベルではTGF–β(ベータ型トランスフォーミング増殖因子)やIDO(インドールアミン–2、3–ジオキシゲナーゼ)などの抑制性サイトカインや代謝関連酵素の過剰産生、細胞レベルでは制御性T細胞(Regulatory T Cell)や骨髄由来抑制細胞(Myeloid-derived Su- ppressor Cells:MDSC)の誘導です。
 また、がん細胞が免疫から逃れる仕組みの1つとして、PD–1、PD–L1、CTLA–4といった分子の存在があります。
PD–1とPD–L1は、免疫の過剰な活性化を抑制するブロック機構です。CTLA–4は、直にがんを攻撃するキラーT細胞の活性化を阻害するほか、免疫を抑制する制御性T細胞に発現する分子です。そこで、PD–1、PD–L1、CTLA–4の阻害抗体薬の研究が進められています。
 たとえば、イピリムマブは進行期の転移性悪性黒色腫に対する治療薬として、2011年に米国食品医薬品局(FDA)から承認を得ています。この分子標的薬は、CTLA–4を標的として攻撃し、免疫細胞のがんに対する攻撃力を回復させる抗体薬です。その他にも、抗PD–1抗体の非小細胞肺がん・腎細胞がんなどを対象とした治験も行われています。
 PD–1、PD–L1、CTLA–4といった「がんの〝壁〟」を除くことが、免疫細胞治療の効果を向上させる1つの鍵となっています。こうした免疫細胞治療の効果を減弱させてしまう主因の解明は、今後、より重視されてくるに違いありません。

(2014年4月30日発行 ライフライン21がんの先進医療vol.13より)

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