シリーズ 治療効果をプラスする「最新のがん治療」

~さまざまながん種に対する免疫細胞療法の効果~
第12回 膀胱がん


加藤洋一
新横浜かとうクリニック院長

 新横浜かとうクリニックでは、通院抗がん剤治療や免疫細胞療法、温熱治療、がん遺伝子検査などを駆使し、がん患者さんへの治療を行っている。その治療のコンセプトは「治療効果をプラスする治療法がある」。つまり、標準治療に他の治療をプラスし、少なくとも生存率を70~80%まで引き上げることを目指しているのである。その切り札の1つである免疫細胞療法として、樹状細胞がんワクチン(樹状細胞ワクチン療法)、活性化リンパ球療法、WT–1 CTL療法などを実践している。
 本連載では、これらの免疫細胞療法がそれぞれのがん種にどのような効果をもたらしたのか、というがん種別の症例を治療方針と共に紹介していく。第12回は、再発率が高いことで知られる膀胱がんを取り上げた。

膀胱がんの標準治療

 当クリニックが開業してから約6年になる。この間、400人以上(大部分がステージⅣか再発・転移のがんを抱えていた)の患者さんに免疫細胞療法を行ってきた。がん種別で見ると多い順に、大腸がん、膵がん、胃がん、肺がん、乳がん、卵巣がん、食道がん、子宮がん、頭頸部がん、前立腺がん、肝がん……と続く。したがって、今回、取り上げる膀胱がんは、当クリニックでは決して症例が多いわけではない。それでも、他のがん種同様、進行性の膀胱がんに対しても当クリニックの免疫細胞療法が奏効したケースは複数あるので後述したい。
 本稿で取り上げる膀胱がんは、移行上皮(膀胱の表面の上皮)ががん化することによって起こる。組織学的には、この移行上皮がんが膀胱がん全体の約90%を占めるとされている。年齢別の罹患率は男女とも60歳以降で増加傾向にあり、男性の罹患率が女性の約4倍である。
 また、膀胱がん罹患の危険因子としては、喫煙が挙げられる。男性では50%以上、女性では約30%の膀胱がんが喫煙のために発生するとの試算もあるほどだ。
 膀胱がんの診断は、膀胱鏡(膀胱内の病変を直接観察するための内視鏡)によって、その大部分を行うことができる。加えて、尿にがん細胞が落ちているか否かを調べる尿細胞診も有効な検査である。そして、ひとたび膀胱がんが見つかれば、CTや胸部X線撮影、腹部のエコーなどでその広がりと転移の有無を調べる必要がある。
 膀胱がんの標準治療には、手術や放射線治療、抗がん剤治療、BCGワクチンあるいは抗がん剤の膀胱内注入療法といったものがある。
 手術は、腰椎麻酔を行って膀胱鏡で腫瘍を観察しながらがんを電気メスで切除するTUR–BT(経尿道的膀胱腫瘍切除術)と、全身麻酔下に膀胱を摘出する膀胱全摘除術とに大別される。また、放射線治療の適応となる膀胱がんは、基本的に浸潤性の膀胱がんである。ただし、膀胱の摘出手術にはデメリットがあるため、あえて放射線治療や化学放射線治療を行う場合もある。
 一般に、転移のある進行性の膀胱がんには、抗がん剤治療が行われる。現在、膀胱がんの治療に最もよく行われる抗がん剤治療がM–VAC療法(メソトレキセート・ビンブラスチン・アドリアマイシンあるいはその誘導体・シスプラチンの4剤の組み合わせの治療)。また、近年、タキソールやゲムシタビンを用いる治療も注目されている。
 BCGワクチンあるいは抗がん剤の膀胱内注入療法は、基本的に膀胱内に上皮内がんや多数の乳頭状のがんがある場合に行われる。ちなみにBCGワクチンは結核菌で、上皮内がんを叩く作用を持ち合わせている。

樹状細胞がんワクチンの効果を高めるには血液の採取時期がポイント

 当クリニックで行っている樹状細胞がんワクチンは、がん細胞の抗原情報をがんペプチド(がんの特異的抗原)として認識する樹状細胞を用いた治療法である。その樹状細胞がんワクチンには、WT–1、MUC1、HER2、AFPペプチドワクチン(αフェトプロテイン由来のペプチドワクチン)の4つがある。それらの使用法の用途はがん細胞の形態によって異なり、腺がんには4つのうちのどれかを、扁平上皮がん・小細胞がん・大細胞がんにはWT–1のみを使用している。
 いずれにしても、当クリニックでは、基本的に樹状細胞がんワクチンの接種は、2週間に1回ずつ計5回(3カ月間)を1コースとしている。そのコース中に、患者さんの免疫反応がしっかりとアップしているのかを調べる。そして、1コースが終了して2カ月以内に、さらにその3カ月後にCT検査を行い、治療効果の評価を行う。ちなみに、治療終了時点でそれほど効果が認められなくても、治療終了から3カ月後に著明な効果が認められるケースも多々ある。
 樹状細胞がんワクチンの奏効率をアップさせるためには、培養のために患者さんから採血する時期を白血球が最も多くて状態のいいときに行うのがベストである。というのは、抗がん剤治療は白血球を減少・損傷させるからである。したがって、樹状細胞培養のための採血は、可能な限り次回の抗がん剤投与の直前に行うようにしているのだ。
 また、樹状細胞がんワクチンは、患者さん自身が持っている免疫力をアップさせるので、他の治療法と併用しやすい。とりわけ活性化リンパ球療法との相性は抜群である。活性化リンパ球療法は、患者さんから採取したリンパ球を増強し、約1000倍に増やして体内に戻し、主として患者さんのがん免疫力を上げることでがんを壊す治療法である。

免疫細胞療法の進行性の膀胱がんへの奏効例

 当クリニックで免疫細胞療法を受ける患者さんのほとんどが、ステージⅣか再発・転移のがんを抱えていた方々である。今回、ご紹介する3人の方々も、全員が進行性の膀胱がんを抱えていた。
 1つ目の症例の患者・Aさん(60歳代・男性)は、2009年6月に血尿が出て、近所の医療機関を受診し、膀胱に腫瘍があることがわかった。同年8月には神奈川県内の病院で経尿道的膀胱腫瘍切除術を受けた。
 腫瘍は左尿管外側にあり、大きさは1・5㎝。病理検査の結果、尿路上皮がんであることがわかり、経過観察をしていた。
 2010年12月、膀胱鏡にて再発が認められた。すでに悪性化が進んでおり、2011年2月からBCGを8回行うことになった。並行して、当クリニックにおいて同年4月から6月にかけ、WT–1樹状細胞がんワクチンをスタートさせた。1コースを行っている間、5月にはCR(腫瘍が完全に消失した状態)となった。そして、9月の検査でもCRであった。現在、再発は認められていない。
 Aさんの場合は、リンパ球数も安定し、GRN(リンパ球数とがん免疫活性度を表す数値)もほぼ4・0以上を維持していた(表1図1参照)。このように免疫が活発に働いている人は、概ね好結果が出るケースが多い。

表1 Aさん(60歳代・男性)



図1 Aさん(60歳代・男性)

 2つ目の症例の患者・Bさん(60歳代・男性)は、2005年7月に血尿が出て、地域の医療機関を受診した。膀胱鏡での検査の結果、膀胱に腫瘍が見つかった(写真1参照)。


写真1 Bさん(膀胱鏡により腫瘍が見つかった)

 同年8月には経尿道的膀胱腫瘍切除術を施行。しかし腫瘍を取り切れず、約2週間後には膀胱を全摘する手術と同時に、新膀胱造設術を受けた。移行上皮がんで、悪性度はやや高かった。
 その後、鼠径リンパ節への転移が認められた。そして、2008年10月より、M–VAC療法を3クール行った。しかし、腫瘍は徐々に大きくなってきた。そのため、2010年9月からゲムシタビンとシスプラチンを用いた治療をスタートさせたところ、徐々に効果が乏しくなり、当クリニックを受診した。
 当クリニックでは、2011年5月から7月にかけ、WT–1樹状細胞がんワクチンを1コース行った。それと並行し、Bさんは放射線治療を受けていた。
 当クリニックでの治療期間中とその1年後、抗がん治療によって、元々、減少したであろうリンパ球数はある程度維持でき、がん免疫力も4・0以上を保ち、病状をコントロールできた(表2図2参照)。

表2 Bさん(60歳代・男性)



図2 Bさん(60歳代・男性)

 3つ目の症例の患者・Cさん(70歳代・女性)は、頻尿に悩まされることが多くなり、地元の医療機関を受診。神奈川県内の基幹病院において経尿道的膀胱腫瘍切除術を施行した。その結果、膀胱がんの診断を受けた。加えて、がんは右腸骨リンパ節と腹膜へ転移していた(写真2参照)。
 その後、膀胱を全摘する手術を受けようとしたものの、腹膜播種があったため、右腎瘻を造るのみに留まった。そのため、ゲムシタビンとシスプラチンの併用がなされようとしたものの、高齢もあってゲムシタビンのみを使用することになった。
そして、2012年11月から2013年2月まで、ゲムシタビンを用いた治療を受けていた。この間、Cさんは当クリニックを受診され、WT–1+MUC1樹状細胞がんワクチンと活性化リンパ球療法をスタートさせた。1コースが終了後、画像上ではがんが消失していた。また、当クリニックでの治療中、GRNもリンパ球数も安定していた(表3図3参照)。
写真2 Cさん(70歳代・女性)

表3 Cさん(70歳代・女性)



図3 Cさん(70歳代・女性)

多種の進行がん313例に対し、樹状細胞がんワクチンの有用性を検討

 当クリニックにおいて、進行がんに対するWT–1/MUC1パルス樹状細胞がんワクチンの有用性の検討を行った。その対象は、2009年5月から2013年10月までに樹状細胞がんワクチンを5回以上接種した大腸がん57例、肺がん42例、膵がん38例、胃がん35例、乳がん24例、卵巣がん18例、食道がん17例、今回のテーマである膀胱がんを含めたその他のがん種82例(29種の悪性疾患)の計313例。
 その抗腫瘍効果はRECISTv1.1に準じて判定し、生存率解析はカプランマイヤー法Log rank testを使用した(当治療は施設の倫理委員会の承認を得ている)。
 その際、使用したペプチドは、WT–1–1 CYTWNQMNLが220例、WT–1–2 RMFPNAPYLが109例、非拘束型MUC1が204例であった。ペプチドが1種類のみは149例、2種類は164例。2種ではWT1–1とMUC1が65例、WT–1–2とMUC1が41例であった。
 また、樹状細胞がんワクチンは313例に対して延べ332クールを行った。うち、1回投与平均2・4×「10の7乗」個、投与回数が平均6・0回、総投与細胞数平均が「1・4の8乗」個を投与した。その治療効果は、CR(腫瘍が完全に消失した状態)が7・6%(23例)、PR(腫瘍の大きさの和が30%以上減少した状態)が23%(70例)、SD(腫瘍の大きさが変化しない状態)が38%(115例)、PD(腫瘍の大きさの和が20%以上増加かつ絶対値でも5㎜以上増加した状態、あるいは新病変が出現した状態)が36%(101例)であった。ただし、RECIST(固形がんの臨床試験における腫瘍縮小効果の客観的評価方法の1つ)非適格例21例を解析から除外した。
 がん種別では、RR(抗腫瘍効果)とDCR(病勢コントロール率)は、大腸がんでは28%・49%、肺がんでは31%・81%、膵がんでは23%・66%、胃がんでは31%・69%、乳がんでは14%・77%、卵巣がんでは20%・40%、食道がんでは22%・78%、その他のがんでは42%・71%であった。
 診断時からの全生存期間の中央値は30カ月、当院初診からの生存期間は13カ月(1年生存率51・6%、2年生存率33・2%)であった。生存解析では、樹状細胞投与数に差はなく、ペプチドワクチンが1種類と2種類でも、あるいはWT–1の1と2の使用による差もなかった。
 樹状細胞療法に関しては、当クリニック以外にも、幾多の報告がされている。たとえば、悪性黒色腫では、自己腫瘍の溶解物を使用し、RRが0%、DCRが10%、甲状腺がんではRRが0%、DCRが33%であったという。加えて、肺がんと乳がんのMUC1ペプチドをパルスした樹状細胞療法でRRが7・7%、DCRが53・8%という報告もある。
 さらに、WTペプチドをパルスした樹状細胞療法では、膵がんでRRが6・1%、DCRが23・1%、MST(生存期間中央値)が5・6カ月であったという報告もある。それに対し、当クリニックにおけるWTペプチドをパルスした樹状細胞療法は、膵がんでRRが22・9%、DCRが65・7%、MSTが8・2カ月であった。
 また、同様の治療法で、他施設の非小細胞肺がんでは、RRが8・1%、DCRが56・5%、MSTが12カ月であったのに対し、当クリニックではRRが32・4%、DCRが79・1%、MSTが18・2カ月と、有意な差が見られた。ただし、当クリニックでの適応基準が余命3カ月を見込め、通院も可能である患者さんを選んでいることなどのバイアス(偏り)が多く、今後、この治療の適応を絞っていくための因子解析や、前向きな試験による正確な効果が求められてくる。

(2014年7月30日発行 ライフライン21がんの先進医療vol.14より)

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