名古屋陽子線治療センター
最先端技術「スポットスキャニング照射」による治療法を導入
通院しやすい「都市型施設」。さまざまな治療法を組み合わせた
「病院併設型施設」でがん治療を提供
取材協力・写真提供● 名古屋陽子線治療センター
取材・文●編集部
愛知県名古屋市北区平手町1丁目にある名古屋陽子線治療センター。愛知県・岐阜県・三重県といった東海3県では初めての陽子線治療施設であり、2012年3月に建屋の引き渡しを受け、陽子線ビームの調整などを経て2013年2月25日より治療を開始した。
前立腺がんの治療に始まり、2013年6月に肝臓がん、同年7月からは肺がんの治療も開始された。厚生労働省より「先進医療」としての施設認定を受けたのは2013年6月1日であった。2014年1月には日本初の「スポットスキャニング照射」による陽子線治療が開始された。
同じ敷地内には隣接して、ベッド数500床を有する「名古屋市立西部医療センター」がある。陽子線治療センターの目指す方向性は、その西部医療センターの一翼として「柔軟かつ効率的な運営を図っていくこと」であると、溝江純悦センター長は言う。
溝江純悦センター長
(センター長室において編集部撮影)
名古屋陽子線治療センターの玄関
待合ラウンジ
国内の陽子線治療施設で初めて、最先端技術「スポットスキャニング照射」を導入
名古屋陽子線治療センターは、名古屋の中心部に近く、名古屋駅から車で約15分という交通の便に恵まれたところにある。日本で8番目にできた陽子線治療施設であるが、都市の中心部にできた施設というのは珍しい。このことから名古屋陽子線治療センターは、通院がしやすい「都市型施設」であることを特徴の1つとして挙げている。ほかに、東海3県初の「陽子線がん治療施設」、さまざまな治療法を組み合わせた集学的治療が可能な「病院併設型施設」、最先端技術である「スポットスキャニング照射」を導入していることなどを施設の特徴として挙げている。
スポットスキャニング照射。米国最大級のがんセンターでも採用された最先端技術で、細い陽子線でがんの部分を塗りつぶすように照射する(名古屋陽子線治療センター、パンフレットより)
スポットスキャニング照射とは、加速器(シンクロトロン)から送られてきた細い陽子線を利用し、がんの部分を塗りつぶすように照射する最先端の技術。この技術の導入により、より精密に、がんの形状に合わせた照射を実現し正常組織の損傷を最小限に抑えることができるようになる(上の図を参照)。同施設の陽子線治療装置は、世界最大級のがんセンターである米国のMDアンダーソンがんセンターに導入された装置をベースにつくられたという。陽子線治療施設においてスポットスキャニング照射を導入するのは国内で初めてである。
また、集学的な治療を可能にしているのは、総合病院である「名古屋市立西部医療センター」が隣接しているからだ。病院併設型施設であることを活かして、抗がん剤や手術などさまざまな治療法を組み合わせたがん治療を患者さんに提供できるわけだ。
「当センターは総合病院である西部医療センターと一体的に運営することで、各診療科の医師等によるキャンサーボードにて、症例ごとの検討ができるようになっています。そのため、個々の患者さんに対して〝最適な医療〟を提案することができます。また、今後、適応の拡大が期待される化学療法との併用治療も提供できる環境にありますから、チーム医療で患者さんへの治療にあたることもできます」(溝江センター長)。
加速器(シンクロトロン)。
陽子(水素原子核)を一定の円軌道上で周回転させて光速の約60%まで加速する装置
水素原子より取り出した陽子を直線加速器(ライナック)にて加速し、
シンクロトロンに送り込む
回転ガントリー。
治療室の裏側にあり、重量200tを超える大型のガントリーである
同センターには、ガントリー照射室が2室、固定照射室が1室ある。ガントリー照射室1には、先に紹介したスポットスキャニング照射が導入されており、この照射法は頭頸部、骨盤部、脊椎などの治療に適している。ガントリー照射室2では、「二重散乱体照射」(陽子線を3次元的にがんの形状にフィットさせ、正常組織への影響が少なくなるように照射)が導入され肺がんや肝臓がんなどの治療が行われている。また、横方向から陽子線を照射する固定照射室では、現在、前立腺がんの治療が行われている。
回転ガントリー照射室。任意の方向から陽子線を照射する。
施設の内部は和風に仕上げ、間接照射や木目を用いることで
落ち着いた雰囲気のなか、治療ができる。
2013年3月まで治療開始患者数は300人を超えたという
固定照射室。横方向から陽子線を照射する照射室
溝江センター長を中心にスタッフは、荻野浩幸陽子線治療科部長、岩田宏満同副部長ほか、4名の医師(常勤2名、非常勤2名)をはじめとして、診療放射線技師、医学物理士、看護師等の医療スタッフや装置の運転保守チーム、事務職などのスタッフにより施設は運営されている。チームの目指す医療は、言うまでもなく「患者さんに最適の治療を提供する」ことである。
Life-line21 Topic
バックナンバー
『ライフライン21 がんの先進医療』は全国書店の書籍売り場、または雑誌売り場で販売されています。以下にバックナンバーのご案内をさせていただいております。
掲載記事紹介
「ライフライン21 がんの先進医療」で連載されている掲載記事の一部をバックナンバーからご紹介します。
定期購読のご案内
本誌の、定期でのご購読をおすすめします(年4回発行=4800円、送料無料)。書店でも販売しております。書店にない場合は、発行元(蕗書房)か発売元(星雲社)にお問い合わせのうえ、お求めください。
全国がん患者の会一覧
本欄には、掲載を希望された患者さんの会のみを登載しています。
なお、代表者名・ご住所・お電話番号その他、記載事項に変更がありましたら、編集部宛にファクスかEメールにてご連絡ください。
新たに掲載を希望される方々の情報もお待ちしております。
[創刊3周年記念号(vol.13)]掲載
がん診療連携拠点病院指定一覧表
(出所:厚生労働省ホームページより転載)
緩和ケア病棟入院料届出受理施設一覧
資料提供:日本ホスピス緩和ケア協会 http://www.hpcj.org/list/relist.html
先進医療を実施している医療機関の一覧表
(出所:厚生労働省ホームページより「がん医療」関連に限定して転載)