九州国際重粒子線がん治療センター

九州初の重粒子線がん治療施設
新たな事業モデルを構築し「粒子線」がん治療施設の普及に貢献する


取材協力・写真提供●九州国際重粒子線がん治療センター
公益財団法人佐賀国際重粒子線がん治療財団
佐賀県健康福祉本部粒子線治療普及グループ
取材・文●編集部



 佐賀県鳥栖市に建設された「九州国際重粒子線がん治療センター(愛称:SAGA HIMAT/サガハイマット)」。2007年、がん対策の切り札のひとつとして佐賀県の古川康知事が、2期目のマニフェストに「がん治療の先端的施設の誘致に挑戦」と掲げたことに始まる一大プロジェクトである。構想浮上から4年足らずで着工に漕ぎ着けた。
 敷地面積約1万2000㎡、建物は鉄筋コンクリート3階建て、延べ床面積約7500㎡。事業主体として治療・運営にあたる公益財団法人佐賀国際重粒子線がん治療財団は、重粒子線によるがん治療の分野を主導している独立行政法人放射線医学総合研究所と協力協定を締結している。建物が完成したのは2012年10月で、治療装置の据え付けや試験期間を経て2013年5月にオープンした。


九州国際重粒子線がん治療センター外観
(小型化された装置が導入された)


直径20mのシンクロトロン加速器。
重粒子線の下になる炭素イオンは、イオン源と呼ばれる装置でメタンガスからつくり出される。
この炭素イオンを線形加速器で光速の約9%まで加速(下)。
さらに、シンクロトロンで光の速さの約70%まで加速して治療室に送られる


産・学・官が手を組み立ち上げた、異例のプロジェクト

 佐賀県鳥栖市は、鉄道と高速道路のいずれもがクロスする九州における交通の要衝。2011年3月に開業した九州新幹線新鳥栖駅までは博多駅から13分、熊本駅から24分、鹿児島中央駅や広島駅からでさえ約80分で新鳥栖駅に着くことができる。サガハイマットは新鳥栖駅の改札口を出てすぐの所にある。九州の経済界、医療界、大学、行政の産・学・官が手を組み立ち上げた異例のプロジェクトだ。
 「佐賀県はもとより、九州ひいては全国のがん患者さんに最先端の治療を提供することを目指しています」と、佐賀国際重粒子線がん治療財団の十時忠秀理事長は語っている。


十時忠秀理事長

 では、そもそもなぜ古川知事は、マニフェストのなかに「先端的がん治療施設の誘致」を掲げたのか。佐賀県健康福祉本部粒子線治療普及グループの原惣一郎副本部長はこう話す。
 「九州地区のがん死亡率は、沖縄を除いた全県で全国平均を大きく上回っていて、なかでも佐賀県は、肝がんの死亡率が長年全国1位という状況にあるんです。今後も高齢化の進行とともに、がん患者さんが増え続けていくことが予測されるなど、がんに対する医療の充実が求められている状況にあり、何とか手を打ちたいという思いがマニフェストに込められたのだと思います」
そのマニフェストが発端となって初期投資額約150億円の事業計画が練られ、工事に着手したのは2011年2月だった。サガハイマット建設に際し掲げられた事業計画の理念のなかには、以下のような一文が見られる。
 《民間では日本で初めての重粒子線がん治療施設の建設及び経営となることから、新たな事業モデルを構築し、それを広く知らしめることにより、重粒子線がん治療施設の普及に貢献したい。》——産・学・官共同による新たな事業モデルの構築。その事業スキームは下の図に見られるとおりである。


「サガハイマット」事業スキーム

 施設が完成して1年目の目標患者数は200人を見込んでおり、本格稼動する4年目以降は「800人の患者さんを治療することを目標にしています」(工藤祥九州国際重粒子線がん治療センター長)。


工藤 祥センター長

 サガハイマットは、「心と体にやさしいがん医療」、「患者さんを尊重した医療」などを基本方針として挙げているが、患者さんを尊重した医療とはどのようなものか。工藤センター長は言う。
 「サガハイマットのビームラインは、3室ある治療室へ各々水平で1本、垂直で1本の計2本の構成になっていますが、1室だけ垂直に替えて斜め45度のラインを装備しています。これは、患者さんに無理な体勢で治療を受けてもらうことになるのを軽減するために導入したもので、重粒子線治療を専門とした施設では、国内初の試みです」


治療エリア。
治療室は3室あり、治療室Aは水平と斜め45度から、
治療室Bは水平と垂直の2方向から照射できる。
3室目となる治療室Cには、次世代型の3次元スキャニング照射装置の導入が予定されている


 運営スタッフは、2014年4月時点で医師5人、医学物理士4人、診療放射線技師8人、看護師5人。4年目以降になり安定稼動に入ってからは医師9人、医学物理士7人、診療放射線技師11人、看護師も増員するという。

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